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技術コラム

 
燃料電池の基礎知識と今後について|松定プレシジョン

燃料電池とは

燃料電池とは、水素(H2)と酸素(O2)を化学反応させて、直接「電気」を発電する装置です。蓄電池のように充電した電気をためておくものでも、発電機のように燃焼によって得られるエネルギーを電気に変換するものでもありません。

燃料電池の発電は、水(H2O)の電気分解の逆の仕組みです。水の電気分解では、電解液に電圧をかけることにより、水の水素イオン(H+)に電子(e-)が与えられて水素になり、また水酸化物イオン(OH-)からは電子が奪われて酸素と水になります。

一方、燃料電池は、電解液の中に水素ガスを送ります。ガスはマイナス電極で水素イオンと電子に分離。水素イオンは電解液の電解質層中を伝ってプラス電極へ移動し、同時に電子は回路を通ってプラス電極へ流れます。こうして電流が発生するのです。

またこのとき、プラス電極は、外から送られた酸素が回路から流れてきた電子を受け取り、酸素イオン(O2-)になります。そして電解液中の水素イオンと酸素イオンは結合して水になります。

燃料電池発電の仕組み|松定プレシジョン
燃料電池発電の仕組み

燃料電池は、このような仕組みで電気を発生させるため、発電時に二酸化炭素(CO2)が発生せず、クリーンな発電装置として注目を集めているのです。

燃料電池の特徴

燃料電池の最大の特徴は、発電時に二酸化炭素を排出しないことです。排出されるのは水のみであるため、発電に伴う環境負荷が低く、クリーンなエネルギーとされています。

2015年に合意されたパリ協定を受け、日本では二酸化炭素を含む温室効果ガスの排出量を2030年までに、2013年度比で26%削減することを目標と定めました。しかし日本では、発電の70%以上を天然ガスや石炭、石油による火力発電に頼っており、発電に伴って排出される二酸化炭素の量も多くなっています。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの開発や導入も進められてはいますが、気候に左右されるため安定的な供給が難しいのが課題です。

これまで多く使われてきた火力発電などの発電機では、燃料を燃焼して発生した熱エネルギーを利用して水を加熱し、水が水蒸気になる際のエネルギーを利用してタービンを回して電力を得ていました。大規模な発電を安定して行えるのはメリットですが、エネルギーロスが多いことや、設備が大規模化しやすいなどのデメリットがありました。

一方、燃料電池は発電機と比べ、発電時に発生する音や振動が少ないことや、短期間で設置できるなどの特徴があります。水力や火力、原子力による発電とは異なり、小規模な施設で発電できます。このような発電は分散型電源とよばれ、エネルギーの地産地消による送電ロスの低減効果や地域経済活性化などの効果などの効果も見込まれています。

燃料電池は発電時に熱を発しますが、排熱を利用して温水を作るなど、エネルギーの二次利用ができるのも大きな利点です。燃料電池に使用する水素ガスを作る際には二酸化炭素を排出しますが、火力発電などと比較すると発電量あたりの二酸化炭素の排出量は少なくなります。

燃料電池の種類

燃料電池は発電方式によりいくつかの種類に分けられており、発電量や適応する用途などが分かれています。ここでは、特に多く実用化されている4種類を紹介します。

固体高分子形燃料電池(PEFC)

主にエネファームなどの家庭用の発電機や、燃料電池自動車に使用されます。イオン交換膜を電解質として利用するのが特徴です。家庭用燃料電池では、都市ガスから水素を取り出します。発電効率は30~40%とやや低めですが、70〜90℃という比較的低い動作温度で運用でき、排熱を利用した給湯もま可能です。
参考文献:https://www.aisin.com/jp/product/energy/cogene/enefarm/

りん酸形燃料電池(PAFC)

工場や事業所において、コジェネレーション発電を行うのに用いられる燃料電池です。食品工場や半導体工場などで利用されています。炭化ケイ素粉末を焼結した板に濃厚りん酸を含浸させたものを電解質として使用します。発電効率は35〜42%で、動作温度は180〜200℃前後です。
参考文献:リン酸形燃料電池の新用途 http://jser.gr.jp/kaiin/JSER_BOOK/2000/21-402.pdf

溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)

火力発電所などの高出力発電設備の代替として期待されている燃料電池です。セラミック多孔体に炭酸カリウムなどを充填し、電解質として利用します。発電効率はおよそ40~50%と高い一方で動作温度も600~700℃と高温になります。海外の水道公社などで試験的な導入が行われています。
参考文献:https://www.neomag.jp/mailmagazines/topics/letter201309.html

固体酸化物形燃料電池(SOFC)

MCFCと同様に、高出力の発電設備として使用される燃料電池です。電解質材料にジルコニア系セラミックスなどを使用しています。家庭用や自動車向けの開発が進められています。40~65%と高い発電効率で、700~1,000℃という高温で動作します。
参考文献:https://www.nedo.go.jp/hyoukabu/articles/201215osakagas/index.html
参考文献:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01537/00550/

燃料電池の今後

燃料電池は地球温暖化対策などの観点から、今後さらに需要が伸びていくでしょう。特に小型の燃料電池は小規模発電に向いており、データセンターや公共施設などの非常用電源としても多くの需要があります。

日本では災害が多く、長期間給電が途絶えるリスクを回避するため、現在多くの自治体や企業が、小規模な自家発電を行えるような設備を整えようとしています。燃料電池は、そのような場面においても高く評価されているのです。

モバイルバッテリーのような小型の燃料電池も開発が進められており、私たちが当たり前のように持ち歩く日も近いのかもしれません。

日本では、スマートシティなどの実証実験でも燃料電池がさかんに活用されています。神戸市の「水素スマートシティ神戸構想」や九州大学の伊都キャンパスの水素エネルギー研究など、多くの取り組みが行われています。

このような実証実験では、水素ステーションで燃料電池自動車に水素を充填し、燃料電池自動車を移動の手段としてだけではなく、住宅や設備の給電元として蓄電池のように利用するなどの事例があります。

しかしながら、水素の供給網をインフラとして整備する必要があるため、燃料電池活用の取り組みは、沿岸に近い一部の都市のみを中心に実験的に行われているのが現状です。

水素の製造については、燃料ガスから生成する以外にも食品廃棄物由来のバイオガスの利用や、電解質にメタノールを利用した、水素の要らない燃料電池などの研究も進められています。

ただしメタノールを利用した燃料電池は、2023年はじめの段階では、安全性や触媒の耐用年数などの課題を抱えており、実用化にはしばらく時間が必要でしょう。

また、欧州や北米などの海外でも燃料電池の導入が進められています。ドイツでは燃料電池で走行する鉄道車両が実験的に導入されたり、アメリカではバスやトラックなどの大型車両を中心に燃料電池車の開発が進められたりしています。

しかし、どこの国でも安全性への対策や、水素供給網の整備などが課題になっており、実用化までなかなか進んでいません。燃料電池の実用化に向けた今後の研究・開発が待たれます。

なお、燃料電池の開発では、発電した電力を模擬的に消費する電子負荷が必要です。一般的な電子負荷は、電力を熱にして廃棄します。冬場であれば、暖房代わりに良いのですが、夏だとその熱を冷却するためにエアコンなどの電力が必要になります。

松定プレシジョンでは、負荷の電力をACラインに回生することが出来る回生型直流電源を製造しています。数kWから120kWまでの電力を回生できるPBRシリーズを燃料電池開発や評価にご利用下さい。また、周辺回路や材料開発には、弊社の直流電源やバイポーラ電源、高圧電源などの電源機器をお役立てください。