UPS(無停電電源装置)の基礎
停電や電源異常から重要な機器を守るUPSは、オフィスやサーバールーム、データセンターなど幅広く活用されています。UPSには複数の給電方式があり、用途や求められる電源品質に応じて最適な給電方式を選択する必要があります。また、近年は再生可能エネルギーの普及に伴い、系統用蓄電池との併用も注目されています。この記事では、UPSの給電方式や種類、主な蓄電技術の選び方まで詳しく解説します。
停電対策と再エネ導入が進む背景
近年、事業継続計画を策定する企業・自治体が増えており、自然災害やサイバー攻撃による停電リスクへの備えが重要視されています。同時に、脱炭素社会に向けた太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入拡大により、天候による発電量の変動を補完する蓄電システムのニーズが高まっています。このような背景から、UPSや蓄電池は電力の安定供給を支える重要なインフラとして注目を集めています。
UPSの給電方式
UPSには複数の給電方式があります。ここでは、代表的な給電方式の仕組みと特徴について解説します。
常時商用給電方式
常時商用給電方式では、通常運転時には商用電源からの電力を直接機器に供給し、同時にバッテリを充電します。電源異常時にはバッテリからの電力供給に切り替わります。電力変換が少ないため効率が高く、小型かつ低コストであるという利点があります。
商用電源からバッテリ電源への切り替え時に数ミリ秒の瞬断が発生するため、高い電源品質が要求される機器には不向きです。ただし、一般的なPC機器やネットワーク機器などでは、数ミリ秒の瞬断では動作に支障をきたすことはほとんどありません。
常時インバータ方式
常時インバータ方式は、商用電源からの電力をいったん直流に変換し、その直流電力を用いてバッテリを充電するとともに、インバータを通じて再び交流に変換し機器に給電する方式です。商用電源に異常が発生しても、給電経路が変わらないため、瞬断が発生することなく電力供給が可能です。
また、インバータを通じて常に安定した正弦波の電力を供給できるため、電源品質も高く保たれます。サーバーやネットワーク機器、医療機器など、瞬時の停電も避けなければならない精密機器に最適です。
ラインインタラクティブ方式
ラインインタラクティブ方式は、常時商用給電方式と常時インバータ方式の中間的な特性を持つ給電方式です。通常時は商用電源から直接給電しますが、電圧変動を自動で補正する機能(AVR:自動電圧調整器)を内蔵しているため、電圧変動があれば自動補正、完全な停電時にはバッテリ運転に切り替わります。
常時インバータ方式よりもコストが低く、常時商用給電方式よりも電圧変動に強いため、価格と性能のバランスが良い給電方式といえます。中小規模のサーバーやネットワーク機器向けに広く使用されています。ただし、常時商用給電方式と同様に、停電時の切り替えで瞬断が発生します。
容量帯
UPSの容量は、保護する機器の規模や用途に応じて選ぶ必要があります。ここでは容量帯別の特徴と適用分野について解説します。
数百VA~数kVA
数百VA~数kVAの容量帯のUPSは、デスクトップPCやノートPC、小型サーバー、ネットワーク機器といった、短時間のバックアップで安全にシャットダウンできる小規模ネットワーク機器の保護に適しています。
10kVA~数百kVA
10kVA~数百kVAクラスのUPSは、企業の基幹システムやデータセンターで使用されます。大規模サーバーシステム、通信設備、医療機器など事業継続に欠かせない重要機器を保護しています。高い可用性が要求されるため、N+1冗長やホットスタンバイといった冗長構成に対応した製品が用意されています。多くは常時インバータ方式を採用し、安定した高品質電源を供給します。導入時は専用の電気工事と設置スペースの確保が必要です。
蓄電技術の種類
電力の安定供給を実現するため、UPS以外にも多様な蓄電技術が開発されています。家庭用から産業用まで、求められる性能や用途によって最適な技術は異なります。ここでは代表的な3つの蓄電技術について、その特徴と適用分野を詳しく解説します。
蓄電技術の比較まとめ
代表的な3つの蓄電技術について、主要な特性を一覧表にまとめたものです。
| 蓄電技術 | 住宅用蓄電池(太陽光連系) | フライホイール蓄電エネルギー | 系統用レドックスフロー電池 |
|---|---|---|---|
| 概要 | 太陽光発電と連携した家庭用小型蓄電システム | 高速回転するディスクの運動エネルギーを活用した蓄電システム | 電解液を循環させて充放電する大型蓄電システム |
| 容量範囲 | 3kWh~16kWh | 数kWh~数十kWh | MWh級(大容量) |
| 主な用途 | 家庭の自家消費率向上、非常用電源 | 重要インフラの瞬時電力保護、電力安定化用途 | 再生可能エネルギーの出力変動緩和、系統安定化 |
| 寿命 | 10~15年程度 | 20年以上 | 20年以上 |
| 特長 |
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住宅用蓄電池(太陽光連系)
住宅用蓄電池システムは、主に太陽光発電と組み合わせて使用される小型蓄電池です。日中の太陽光発電で生じた余剰電力を蓄え、夜間や悪天候時に使用することで、自家消費率を高め、電気料金を削減できます。また、停電時には非常用電源として家庭内の機器への電力供給が可能です。リチウムイオン電池を採用した製品が主流で、近年は製品の小型化と低価格化が進んでいます。
フライホイール蓄電エネルギー
フライホイール蓄電エネルギーとは、外部から供給された電気エネルギーを用いてフライホイール(回転体)を高速で回転させ、運動エネルギーとして蓄積する技術です。化学電池とは異なり、瞬時に大電力を出力できる特性があるため、データセンターのような重要インフラの電力保護に適しています。
摩擦を減らすための磁気軸受や真空容器を使うことで、高効率なエネルギー貯蔵が可能です。鉛蓄電池やリチウムイオン電池のように化学反応を利用しないため運用時の環境負荷が低い点や、サイクル寿命が非常に長いという利点があります。
系統用レドックスフロー電池
レドックスフロー電池は、電解液を循環させて充電、放電する蓄電池です。バナジウムなどのイオンの酸化還元反応を利用した大型蓄電システムであり、MWh級の大容量蓄電が可能です。電解液をタンクに貯蔵する構造であるため、蓄電容量と出力を独立して設計でき、容量を容易に拡張できます。
水溶性の電解液を用いるため発火性が低く、安全性に優れています。さらに、充放電時に電極や電解液の組成変化が少なく、劣化しにくいため長寿命でライフサイクルコストを低く抑えられます。こうした特性から、再生可能エネルギーの出力変動緩和や電力系統の安定化に適しており、大規模蓄電システムで広く採用されています。
適切な蓄電方式の選び方
適切な蓄電方式を選ぶためにはコストだけではなく運用環境や将来の拡張性も考慮した総合的な判断が必要です。以下では選定時に検討すべき主要な要素について説明します。
電力量(kWh, MWh)
UPSの蓄電容量を決定する際は、まずバックアップが必要な機器の消費電力(WまたはVA)を合計し、次に必要なバックアップ時間や平準化時間を明確にします。
蓄電容量は、負荷電力に必要なバックアップ時間を掛けることで概算できます。例えば、50Wの負荷を1時間バックアップしたい場合、最低でも50Whの電力量が必要です。系統用大型蓄電池ではMWh単位の大容量が必要になることもありますが、小規模UPSでは数kWh程度で十分な場合もあります。
出力(kW, MW)
UPSの出力を決める際は、接続機器の使用パターンを考慮します。例えば、複数の機器が同時に最大負荷で動作することは稀で、実際の使用状況では数値上の単純合計より少ない消費電力になることがほとんどです。
しかし、特に起動時に大きな電力を必要とするコンピューターや周辺機器は、定格の2倍程度の電力を瞬間的に消費する場合があります。こうした瞬時出力にも対応できるよう、余裕を持った出力選定が推奨されます。また、複数機器を同時に使用する際の最大消費電力であるピーク電力も考慮する必要があります。
放電時間
放電時間の選定は使用目的によって大きく異なります。停電時のデータ保護や機器シャットダウン用途(数秒〜10分程度)では、小型UPSやリチウムイオン電池ベースの小容量蓄電システムが適しています。出力密度が高いため、短時間で大きなパワーを供給できます。
一方、家庭での電力自給用途(数時間程度)では、5〜15kWh程度のリチウムイオン家庭用蓄電池が主流で、夜間の電力使用や短期停電に対応できます。さらに、電力系統の調整用途(数時間〜数日)には、容量と出力を独立して設計できるレドックスフロー電池が適しています。
応答速度
応答速度とは、電源トラブル発生から蓄電システムが電力供給を始めるまでの時間です。サーバーやデータセンター、医療機器などで、電力供給が途絶えてはならない用途では、瞬断のない常時インバータ給電方式が必要です。商用電源の電力を常にバッテリを経由して供給するため、電源切替時の瞬断が発生しません。
一方、一般的なオフィス機器やネットワーク機器では、数ミリ秒の瞬断であれば問題ないことが多く、その場合は低コストなラインインタラクティブ方式や、常時商用給電方式で十分対応できます。応答速度の要件を明確にすることで、コストと性能のバランスを考慮した蓄電方式を選定できます。
サイクル回数
サイクル回数とは、蓄電池が満充電から完全放電までを1サイクルとし、何回繰り返し使用できるかを示す指標です。使用頻度と製品寿命から必要なサイクル回数を算出する必要があります。家庭用蓄電システムでは、1日1回の充放電が一般的です。例えば、製品寿命が10〜15年に設定されている蓄電池では、3,650〜5,475サイクル(365日×10〜15年)程度の寿命が必要となるため、6,000サイクル以上の耐久性を持つ蓄電池が適しています。
一方、工場やデータセンターなど産業用途では電力需給調整や非常用電源といったより厳しい運用条件があり、1日に複数回の充放電が発生することもあります。その場合、サイクル寿命の長いリチウムイオン電池やレドックスフロー電池などが有効です。頻繁な充放電が予想される場合は、サイクル寿命の長い蓄電池を選ぶことが重要です。
開発・品質保証を支える電源・電子負荷
UPSや蓄電システムの性能を正確に評価するには、様々な電源環境や負荷条件下での性能検証が必要です。ここでは、UPS評価に必要な電源・負荷装置の種類と特徴について詳しく紹介します。
双方向DC電源
双方向DC電源は、電力の供給と吸収の両方が可能な電源装置です。双方向DC電源を用いると、UPSに内蔵される蓄電池の充放電特性や容量、応答速度などを高精度に評価できるため、長期運用時の性能を事前に把握できます。また、双方向DC電源は蓄電池の劣化状況も再現できるため、UPSの寿命を通じた性能変化も予測でき、実運用環境に近い条件での製品比較や選定が可能です。
AC電源
AC電源とは、電圧・周波数・波形などを自由に設定できる高精度な電源発生装置です。実際の商用電源の様々な状態を人工的に再現できる試験装置であり、UPSの性能評価に役立ちます。具体的には、商用電源の電圧変動(過電圧/不足電圧)や周波数変動といった実際の電源環境を再現できます。特に重要なのは瞬時電圧低下や瞬時停電の試験で、数ミリ秒から数秒の短時間の電源変動に対するUPSの応答性を正確に評価できます。
電子負荷
UPSや蓄電システムの出力特性評価には、実際の負荷を再現する電子負荷装置が必要です。定電流・定電圧・定電力・定抵抗など様々な負荷特性を再現できます。急変負荷試験では、負荷の急激な変動に対するUPSの応答性や電圧安定性を評価できます。また、バッテリの放電試験では、一定の放電条件を維持しながら容量やUPSの持続時間を測定します。さまざまな負荷パターンを再現することで、オフィス機器やデータセンター機器など実際の使用環境に近い状況での動作を確認できます。
バイポーラ電源
バイポーラ電源は、正負両極性の電圧出力が可能な高速応答電源装置です。±電圧出力と高速応答性により、UPSのインバータ回路の性能評価が可能です。具体的には、入力電圧変動に対する応答特性や出力安定性を精密に検証できます。また、UPS内部の電源制御回路のテストでは、正負両極性の電圧変動を高速に再現し、過渡応答や保護機能の動作を確認できます。