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技術コラム

真空は、食品の真空パックにも利用されている、比較的身近なものです。工業的には半導体の製造や薄膜の生成、電子顕微鏡などでも利用されています。この記事では真空の定義や作り方、測定方法について紹介します。

真空とは

真空とは、一般的な言葉の意味としては「空気がない」ことを意味します。空間内に空気の分子がないことを絶対真空といいますが、厳密にみた場合、全ての気体分子を排除するのは非常に困難です。つまり本当の意味で「空気がない」状態は、基本的に作ることができません。

そのため日本産業規格(JIS)では真空の定義を「通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間の状態」、要するに「負圧」であると定めています。このように、一般的な意味の「真空」と、工業的な「真空」は異なる意味を持つため注意が必要です。

ここでは工業的な真空について解説していきます。
JISの定義では真空は気圧によって5つの区分に分けられます。

  • • 低真空(low vacuum)105Pa~102Pa
  • • 中真空(medium vacuum)102Pa~10-1Pa
  • • 高真空(high vacuum)10-1Pa~10-5Pa
  • • 超高真空(ultra high vacuum)10-5Pa~10-8Pa
  • • 極高真空(extremely high vacuum )10-8Pa以下

真空状態では、空気がないために雑菌が繁殖しにくいことや、気体分子に邪魔をされずに加工や観測ができるのが特徴です。特に工業的には、後者の目的で真空状態を利用するケースが多くあります。気体分子を排除することで、分子が他の分子に衝突せずに進める距離が長くなります。

つまり薄膜などの加工がしやすくなります。

真空の用途

真空はさまざまな場所で利用されています。日常的なものであれば、食品の脱気による真空パックや乾燥によるフリーズドライ食品の加工などが代表的です。工業的には真空蒸着や真空プラズマ処理、SEM(走査電子顕微鏡)などにも使われています。
真空の区分と代表的な用途を次に示します。

低真空

生産工程で薄膜やワークを把持するための真空チャックの他、樹脂の真空成形にも使われています。大気圧との差を利用してものを吸着したり、加工物に余計な空気が入りにくくしたりするために使われるケースが多くあります。

中真空

成膜装置に使われます。CVDやプラズマ処理装置、真空蒸着などの用途があります。加工する空間の中から、成膜に使わない気体分子を減らすことで膜の密着や品質を向上させるために利用されます。

高真空

中真空と同様に、成膜装置に多く使われます。CVDやスパッタリング、イオンプレーティング装置、イオンエッチング装置なども高真空を使います。また食品加工でフリーズドライ加工を行う際にも高真空が使われます。

超高真空

素粒子の研究用大型加速器、表面分析装置、分子線蒸着装置、スペースチャンバーなどに使用されます。たとえば粒子を加速させる場合には、空気中の気体分子が邪魔になり、粒子の加速を妨げてしまいます。そのため操作したい粒子や分子以外のものを空間から排除するために利用されます。

極高真空

極高真空はまだ実用化されていないため、用途もまだ確立されていません。現在は極高真空を得るための真空ポンプや計測器の開発が行われています。

真空状態の作り方

真空状態を得るためには、ポンプを用いて空間内の気体分子を排出します。真空度によって使う真空ポンプの種類が変わります。

低真空

油回転ポンプ、ドライポンプなどが使われます。ある程度空気を排出できれば低真空が実現できるため、機械的な仕組みで空気を排出するものがほとんどです。日常では手動の簡易的なポンプが使用されます。

中真空

油回転ポンプ、エグゼクポンプ、メカニカルブースターポンプなどが使用されます。低真空と同様、機械的なポンプで実現はできます。しかし、低真空とは異なり、気体の流れを連続体として扱えるか否かを示すクヌーセン数に注意しながらポンプを選ぶ必要があります。

高真空

ターボ分子ポンプ、油拡散ポンプ、ドラッグ付き拡散ポンプ、ゲッターイオンポンプなどが使用されます。中真空までとは異なり、単純に機械的に空気を排出するのでは実現しにくくなってきます。ターボ分子ポンプのように気体分子をはじき飛ばすなど、分子の存在にアプローチする必要が出てきます。また高真空やそれより高い真空を得る場合、最初から高真空用のポンプを使うのではなく、低真空や中真空を作るポンプである程度気体を排出してから、高真空を作るポンプを動作させます。

超高真空

スパッタイオンポンプ、チタンゲッターポンプ、非蒸発型ゲッターポンプなどが使用されます。超高真空を得ようとする場合、空気を排出するというよりは、空間内にある空気の分子を吸着するなどの方法で消滅させる仕組みになります。イオンポンプについて詳しくは、イオンポンプ-松定プレシジョン電源アプリケーションをご覧ください。

極高真空

極高真空を得るためのポンプは、現在も研究中であり、実用化はされていません。

真空度と真空ポンプの種類|松定プレシジョン

真空の測り方

真空状態を利用する際には、空間内の気圧が目的の気圧になっているか確かめる必要があります。そのため、真空を確認するための真空計は非常に重要です。真空の区分と使用される真空計は次のようになっています。

  • 低真空:液柱差真空計、隔膜真空計
  • 中真空:マクラウド真空計、熱伝導真空計
  • 高真空:電離真空計、ペニング真空計
  • 超高真空:B-A真空計(特殊型電離真空計)

低真空では、大気圧と真空空間の気圧差などから真空を測定するケースがほとんどです。一方で高真空以上になると、気体分子が測定部に触れることで発生する電離を利用するなど、空間内に残っている気体分子を数える方法が用いられます。冷陰極電離真空計では、陰極と陽極の間に高電圧を印加し放電させ発生するイオンから真空度を測定しています。
参考リンク:真空計-松定プレシジョン電源アプリケーション