電気を取り扱う業務には危険が伴う作業です。
事業主は電気による労働災害の防止と作業員の安全を確保するために、従業員には電気に対して特別教育を受けさせなければいけません。
しかし、電気の大きさは幅広く、電力の大きさで危険度も違い業務内容も変わってきます。そのため、業務内容にあった特別教育を受講しなければいけません。
今回は「高圧電気取扱特別教育」について解説します。

「高圧電気取扱特別教育」とは
高圧電気取扱特別教育は、高圧電気を扱う業務に従事する労働者に対して義務付けられている安全教育です。電気による労働災害を防止し、作業員の安全を確保することを目的としています。
労働安全衛生法に基づく特別教育
高圧電気取扱特別教育は「労働安全衛生法第59条」に基づいて実施される特別教育です。事業者は、従業員に高圧または特別高圧の電気を取り扱う作業をさせる場合、事前に特別教育を実施しなければなりません。
対象者
高圧電気取扱特別教育の対象者と、具体的な電圧範囲は以下の通りです。
対象者 | 詳細 |
---|---|
作業従事者 | 高圧・特別高圧の充電設備作業に従事する全員 |
資格保有者 | 電気工事士等の国家資格保有者も必須 |
予定者 | 高圧電気作業への従事予定者 |
区分 | 電圧範囲 |
---|---|
高圧 | 直流:750V超 交流:600V超〜7000V以下 |
特別高圧 | 7000V超 |
特別教育は労働安全衛生法により義務付けられています。資格の有無に関わらず、上記の電圧範囲の電気を扱うすべての作業者は、作業開始前に必ず受講しなければなりません。
また、実施には事業者が厚生労働省の定める講習内容に従う必要があります。
「低圧電気取扱業務特別教育」や「特別高圧電気取扱特別教育」との違い
「高圧電気取扱特別教育」のほかに、電気設備の安全な取り扱いを学ぶための安全教育として、「低圧電気取扱業務特別教育」や「特別高圧電気取扱特別教育」があります。
3つの安全教育の違いを区分すると以下の通りです。
- 1.電圧の違い
- 2.業務内容の違い
それぞれ解説します。
電圧の違い
電圧とは、電気を流そうとする力の大きさのことです。電気工事に関する特別教育は電圧の違いで内容が変わります。
ご自身に適した特別教育を受けるために、まずは自身が作業する電圧の種類を知らなければなりません。
電圧の区分は以下の表の通りです。
低圧 | 高圧 | 特別高圧 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
提供契約 | 電灯 | 動力 | 小口 | 大口 | ||
契約電力 | 50kW未満 | 50~500kW | 500~2000kW | 2000~1万kW | 5万kW~ | |
契約電圧 | 交流(AC)600V以下 直流(DC)750V以下 |
交流(AC)600V超7000V以下 直流(DC)750V超7000V以下 |
20000V以上 | |||
主な対象 | 小規模な小売・飲食点など | 中小ビルや中小規模工場 | 大規模工場やデパートオフィスビル |
低圧
低圧は、地域の電力会社の発電所からの電気が変電所で変圧され、柱上変圧器(トランス)を通じて家庭や店舗、小規模な事業所に供給されます。具体的な使用例は、家庭用の電化製品や小型の業務用機器などです。
低圧電力には主に以下の2つのプランがあります。
-
• 従量電灯:
一般家庭向けのプランで、使用した電力量に応じて料金が決まる契約です。家庭用の冷蔵庫やパソコンなど、比較的電力を使用しない機器に適しています。
-
• 低圧電力(動力プラン):
業務用のエアコンや大型冷蔵庫、モーターなど、より多くの電力を消費する機器向けのプランです。基本料金が高く、電力量料金が安いという特徴があります。
低圧は電圧が低く、特別な設備投資が不要であるため、幅広い用途で利用されています。
高圧電力
高圧電力は、電力会社の発電所から直接供給され、需要家側で受変電設備(キュービクル)を設置して、必要な電圧(通常は100Vまたは200Vなど)に変圧します。
自社で変電と分電を行うため、電圧降下や停電のリスクが低く、安定した電力供給が可能です。
低圧電力よりも単価が安いため、大量の電力を使用する施設や重要な設備を持つ施設(病院やデータセンターなど)ではコストパフォーマンスが向上します。
特別高圧
特別高圧は、発電所で作られ(最大50万V)、一次変電所で変圧(15.4万V)された電力を自社で設置した受電設備に直接供給します。特別高圧を利用するためには、専用の受変電設備が必要です。
電圧降下や停電のリスクが低く、安定した電力供給ができるため、多くの電力を必要とする施設(大規模な工場や商業施設、オフィスビルなど)で使用されます。
しかし、受変電設備の設置や維持管理に高額な初期投資が必要です。
設備の管理には専門的な知識が求められるため、電気主任技術者の選任が義務付けられている点には注意が必要です。
業務内容の違い
「高圧電気取扱特別教育」「低圧電気取扱業務特別教育」「特別高圧電気取扱特別教育」は、いずれも電気に関する業務を行うために必要な教育ですが、対象業務や取り扱う電圧、作業内容には明確な違いがあります。
以下に、各教育の概要と業務内容の違いについては、以下の表の通りです。
低圧電気取扱業務特別教育 | 高圧電気取扱特別教育 | 特別高圧電気取扱特別教育 | |
---|---|---|---|
対象業務 | 低圧電気(直流750V以下、交流600V以下)の充電電路の敷設や修理、低圧電路の操作に従事する労働者 | 高圧電気(直流750V以上、交流600V以上7000V以下)の充電電路やその支持物の敷設、点検、修理、操作に従事する労働者 | 特別高圧電気(7000Vを超える電圧)の充電電路やその支持物の業務に従事する労働者 |
業務内容 |
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取り扱う電圧の範囲が異なり、電圧が高くなるほど専門的な知識や技術が求められます。特に活線作業と充電電路の操作は危険が伴うため、特別教育を受講しなければ作業を行うことができません。
そのほか、2019年10月に労働安全衛生法第36条第4号が改正され、低圧電気取扱業務特別教育から分離された「電気自動車等の整備業務に係る特別教育」があります。
この特別教育は、近年、電気自動車やハイブリット車の普及が広まったため、新たに設けられました。
「低圧電気取扱業務特別教育」は、低圧電気に関する基本的な知識と安全作業のための教育で、「電気自動車等の整備業務に係る特別教育」は、特に電気自動車の整備に必要な専門的な知識を学ぶための教育です。
高圧電気取扱特別教育の教育内容
高圧電気は危険を伴うため、取り扱いには専門的な知識と技術が必要です。安全な作業を行うために、法律で定められた「高圧電気取扱特別教育」を受けることが義務付けられています。
高圧電気取扱特別教育について、以下の順番で解説していきます。
- 実施される教育機関
- 学科
- 実技
- よくある質問
1.教育機関
高圧電気取扱特別教育は、以下のような公的機関や団体で実施され、講習修了すると修了証が交付されます。
-
労働基準協会:各地域の労働基準協会が主催する講習会があり、全国各地で開催されています。
- 東京労働基準協会連合会
- 名古屋南労働基準協会 など
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各地域の電気保安協会
- 関東電気保安協会
- 中部電気保安協会 など
-
安全衛生マネジメント協会:東京や愛知、大阪、福岡などで労働安全衛生法に基づく特別教育や安全衛生教育を実施する非営利団体
-
オンライン講座:一部の教育機関では、学科部分をオンラインで受講できるWEB講座も提供され、受講者は時間や場所を選ばずに学ぶことができます。
- SAT株式会社:技術系・現場系資格を専門とした通信教育会社。
- 建設不動産総合研修センター(CECC):建設不動産業界における教育コンテンツを提供する一般社団法人。
オンライン講座での実技の受講は、各事業所にて講師(当該実技において十分な知識又は経験を有する者)を選任し、映像講義の解説に基づいて演習を行なう必要があります。
2.学科
安全衛生特別教育規定により、高圧電気を扱う労働者は、定められた科目を定められた時間受講しなければなりません。
高圧電気取扱特別教育の学科の内容は以下の通りです。
科目 | 内容 | 目的 | 時間 |
---|---|---|---|
1.高圧・特別高圧の電気に関する基礎知識 | 高圧および特別高圧の電気の基本的な特性や取り扱いに関する知識 | 災害を防止するために、高圧電気の特性や危険性を理解し、感電事故を防ぐための基礎知識を身につける | 1.5時間 |
2.高圧・特別高圧の電気設備に関する基礎知識 | 具体的な電気設備の構造や機能 | 高圧および特別高圧の電気設備の構造や機能を理解し、安全な操作方法と適切な保守管理を行うための知識を得る | 2時間 |
3.高圧・特別高圧用の安全作業用具に関する基礎知識 | 安全作業用具の種類とその使用方法 | 安全作業用具の種類と選定、使用方法を学び、作業中の安全を確保する | 1.5時間 |
4.高圧・特別高圧の活線作業及び活線近接作業の方法 | 実際の作業における具体的な手法 | 活線作業の具体的な手法を学び、実際の作業における安全性を向上させる | 5時間 |
5.関係法令 | 関連する法律や規則 | 高圧電気取扱業務に関連する法令を理解し、法令遵守の重要性を認識する | 1時間 |
高圧電気取扱特別教育は、感電や事故を防ぐために必要な知識と技能を提供することが目的です。各項目は、法令に基づき、作業者が安全に業務を遂行するために不可欠な内容となっています。
3.実技
労働安全衛生法第39条に基づいて、労働災害を防止するために、業務に必要な安全衛生に関する知識や技能を身につけ、習得しなければなりません。
高圧電気取扱特別教育の実技の内容は以下の通りです。
項目 | 詳細 |
---|---|
実技教育時間 |
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実技の内容 |
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実技教育は、各事業所で行い、指導者のもとで実際の作業環境での訓練を実施することが一般的です。受講時間は、業務内容に応じて15時間以上または1時間以上と定められています。
4.「高圧電気取扱特別教育」のよくある質問
高圧電気取扱特別教育に関するよくある質問をまとめました。
「高圧電気取扱特別教育」はどこで受講できますか?
各地の労働安全衛生関連団体や教育機関で受講可能です。
• 例:関東電気保安協会、安全衛生マネジメント協会、中部電気協会など
高圧電源を使う場合、「高圧電気取扱特別教育」を受ける必要がありますか?
活線作業および活線状態の高圧設備周辺で安全確保が必要な作業を行う場合は必須になります。
「高圧電気取扱特別教育」に直流と交流の区別はありますか?
「高圧電気取扱特別教育」の受講において、直流と交流の明確な区別はありません。ですが、交流特有の知識(例えば、周波数やリアクタンスに関する内容)や、直流特有の知識(例えば、直流アークの危険性)は、特別教育の中で取り扱われます。
充電電路や充電電路の支持物とは?
充電電路は、電力が供給されて電気が流れる回路を指します。具体的には、電源から負荷(例えば、電気機器や設備)に電力を供給するための導体(電線やケーブル)で構成されており、電圧がかかっている状態を意味します。
充電電路の支持物は、充電電路を支えるための構造物や装置を指します。これには、電柱、鉄塔、架線などが含まれ、充電電路が安全に設置され、運用されるために必要な基盤を提供するものです。
支持物は、電線を適切な高さに保ち、周囲の環境からの影響を受けにくくする役割を果たします。
高圧若しくは特別高圧の特別教育を受講すれば、低圧の特別教育を受講しなくとも良いのでしょうか?
高圧・特別高圧の特別教育と低圧の特別教育は、それぞれの業務に必要な知識や技能を習得するための教育です。両者の教育内容は異なっており、相互の免除や省略は認められていません。
労働安全衛生法では、事業者は労働者を危険または有害な業務に従事させる場合、必要な特別教育を実施することが義務付けられています。そのため、高圧・特別高圧の特別教育を受講済みの場合でも、低圧の業務に従事する際は、低圧の特別教育を別途受講する必要があります。
日本以外での高圧電気教育制度
海外にも高圧電気に関する法律や法規定、安全教育があります。
代表的なものは以下の4つです。
- 1.OSHA(Occupational Safety and Health Administration)基準:アメリカ合衆国
- 2.NFPA 70E(電気安全規格):アメリカ合衆国
- 3.Electricity at Work Regulations 1989:イギリス
- 4.CSA基準(Canadian Standards Association):カナダ
以下に4つの法規定を比較しました。
OSHA | NFPA 70E | Electricity at Work Regulations 1989 | CSA基準 | |
---|---|---|---|---|
国 | アメリカ | アメリカ | イギリス | カナダ |
規格の位置づけ | 労働安全衛生法に基づく強制力のある規制 | OSHAを補完する電気安全規格 | 健康安全法に基づく強制力のある規制 | 一部分野で 法的拘束力あり |
目的 | 職場での労働者の安全・健康保護 (災害や職業病の防止) |
電気作業の安全確保 (感電、アークフラッシュなどの防止) |
電気設備の安全な使用 (感電・火災などの電気的危険を防止) |
製品やシステムの安全性・性能・持続可能性(特に電気・機械設備の安全確保) |
対象者 | アメリカ国内のほぼ全ての雇用者・労働者(一部例外あり) | 電気設備の設置・保守・運転に関わる労働者・管理者 | イギリス国内の全ての雇用者・労働者および電気設備の設置・管理責任者 | カナダ国内で製造・販売・使用される製品や設備に関わる企業・個人 |
主な内容・特徴 |
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それぞれ解説していきます。
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国には「OSHA(Occupational Safety and Health Administration)基準」「NFPA 70E(電気安全規格)」という2つの高圧電気取扱についての規格があります。
OSHA(Occupational Safety and Health Administration)基準
OSHAはアメリカ労働省に属する機関で、1970年に制定された「労働安全衛生法(Occupational Safety and Health Act)」を実施するために設立されました。全ての労働者、特に建設業や製造業など危険な作業環境で働く人々の安全と健康を守ることが目的です。
職場での労働災害や職業病を防ぐため、以下のような具体的な規則を定めています。
- 安全機器の使用基準
- 危険物の取り扱い方法
- 作業環境の評価方法
また企業には、これらの基準を遵守し、定期的な安全衛生報告を行うことが義務付けられています。
NFPA 70E(電気安全規格)
NFPA 70Eは、アメリカの全米防火協会が策定した電気安全に関する自主規格です。職場での電気作業における安全性確保を目的とし、OSHAの要請により開発されました。
主に電気設備の設置、保守、運転に関わる技術者や管理者を対象としています。
規格の内容は、以下のものです。
- 電気的危険の評価・管理
- 感電防止のための保護境界設定
- 個人用保護具の使用基準
- ロックアウト・タグアウト手順の実施
また、高電圧作業におけるリスク防止のための訓練や実施手順も規定しており、事業者が自主的に活用するケースが多く見られます。
イギリス
イギリスでは「Electricity at Work Regulations 1989」という規格があります。
Electricity at Work Regulations 1989
Electricity at Work Regulationsは、1989年に制定されたイギリスの法律です。電気設備や電気作業に関連する安全基準を定め、労働者の安全確保を目的としています。
主な特徴は以下の通りです。
- イギリス国内で電気作業を行う全ての労働者や、電気設備を管理する企業が対象
- 電気設備の設計や施工における安全基準を規定
- 作業者の訓練や適切な保護具の使用を義務付け
この法律では、電気設備の設置、使用、保守に関する安全基準を詳細に定めており、定期的な点検とメンテナンスの実施を義務付けることで、作業現場での安全確保を図っています。
カナダ
カナダの高圧電気取扱に関する規格は「CSA基準(Canadian Standards Association)」です。
CSA基準(Canadian Standards Association)
CSA基準は、カナダ規格協会(Canadian Standards Association, CSA)が策定した一連の安全基準や規格のことです。CSA Z462は、カナダ規格協会が策定した職場における電気安全規格で、アークフラッシュや感電などの電気的危険から作業者を保護することを目的としています。
主な特徴は以下の通りです。
- カナダ国内の電気技術者、保守作業者、管理者など、電気作業に関与する全ての人々が対象
- 作業環境における電気的危険の特定とリスク評価手順を規定
- 適切な個人用保護具の選定や安全作業手順の策定をガイドライン化
この規格では、作業者への教育・訓練の実施や、作業前のリスクアセスメントの実施を求めており、企業や組織がこの基準に従うことで、作業者の安全確保と労働環境の改善が期待されています。
アジア諸国の高圧電気教育制度
日本以外のアジア諸国にも高圧電気に関する法規定があります。
中国における高圧電気に関する法律 は「安全生産法(安全生产法)」と「電力安全規程(电力安全规程)」です。これらの法律は、電力設備の安全管理や労働者の安全教育を義務付けており、特に電気作業に従事する者に対して専門的な安全教育を受けることを求めています。
韓国の高圧電気に関する法律は「産業安全保健法」 です。特に高圧電気作業に従事する労働者に対して厳格な安全教育を義務付けることで、労働者の安全と健康を守るために、産業事故を防止するための基準を設けています。
「高圧電気取扱特別教育」の受講で安全な作業を行おう
「高圧電気取扱特別教育」は、労働安全衛生法に基づき、高圧(7000V以上)の電気を取り扱う作業者に対して義務付けられている教育です。
作業者の安全確保と電気設備の適切な運用のための確実な受講と定期的な再教育が必要とされています。