プラスチックや電線の被覆に使われるビニルなどは、電気を通さない「絶縁体」と呼ばれています。一方で、コンデンサ素子の+と-の電極の間に挟まれている、電気をため込む性質を持った「誘電体」と呼ばれる物質があります。
この物質は+と-の電極の間に入っているにもかかわらず、直流の電気を通さないなど、絶縁体と似た性質を持っています。絶縁体と誘電体は、「電気を通さない」という点では似ていますが、それ以外は全く異なる性質を持った「似て非なる」物質であると言えます。
誘電体は絶縁体の一種でありながら、電気をためる特性を持つ誘電分極を起こします。その大きさは誘電率で表されます。絶縁体の一種でありながら電気をためこむ誘電体は、実は次世代材料として期待されている一面を持っています。
では、絶縁体と誘電体にはどのような違いがあるのでしょうか?
誘電体と絶縁体の違い
誘電体と絶縁体はどちらも直流の電気を通さないという点においては共通しています。しかし、交流の場合、その周波数に応じた抵抗(インピーダンス)を持つようになるのが誘電体を使ったコンデンサ素子です。見かけ上、誘電体は交流では電気を通すものということになります。一方で絶縁体は直流回路でも交流回路でも電気を通しません。こうした性質の違いはどのような理由によるものでしょうか?
誘電体の分極と誘電率
誘電体はコンデンサの材料にも使われていますが、直接的に誘電体内部に電気が通るということはありません。そのため、電気を通さない絶縁体に分類されます。しかし、周波数が高い交流回路では、インピーダンス(抵抗)成分を持ちながらも電気は流れます。
誘電体は、プラスとマイナスの電気がかかった電極の間に挟まれると、その電気場の影響を受けて分極と呼ばれる状態になります。分極は、誘電体が分子レベルで、プラスに引き寄せられる側とマイナスに引き寄せられる側に分かれて整列する現象で、プラスとマイナスの電気に対応した分極が起きます。
分極した誘電体は、電子を電極上に引き付ける性質を持っています。この分極により、電気(電子)の一部がコンデンサの電極から離れられなくなって、電気をため込む性質となります。交流回路では、周波数が高くなるとコンデンサの両極にかかるプラスとマイナスが頻繁に入れ替わるので、コンデンサ電極から離れられなくなった一部の電気が入れ替わるのに抵抗する形となり、これがインピーダンス成分となります。
誘電体は、絶縁体に分類されますが、誘電分極というメカニズムによって、電気をためたり、交流回路では見かけ上の電気抵抗になったりするのです。
誘電体が電気をためる大きさを表す誘電率がありますが、これは誘電分極のしやすさを表す指標とも言えます。真空の誘電率との比で何倍かということを示す比誘電率が用いられることが多く、比誘電率は誘電体の種類によって異なります。コンデンサの性能には、誘電体材料の特性が重要な要素となります。
| 物質名 | 比誘電率 |
|---|---|
| チタン酸バリウム | 約5000 |
| 水 | 80.4(20℃ ※温度によって大きく変化する) |
| アルミナ | 8.5 |
| 雲母(マイカ) | 7.0 |
| 石英 | 3.8 |
| ガラス | 5.4~9.9 |
| ゴム | 2.0~3.5 |
| 紙 | 2.0~2.6 |
| パラフィン | 2.1~2.5 |
| 空気 |
1.00059 |
※本表の作成にはWikipediaを参考にした。(CC BY-SA 3.0)
金属、半導体、絶縁体の電気的性質
では、金属や半導体など電気を通す物質(導体)と、絶縁体は原子構造的にどのような違いがあるのでしょうか。金属などの電気伝導体(導体)は電気をよく通すため電線に用いられます。金属を原子レベルで考えたとき、自由に動き回れることができる「自由電子」を、他の物質と比べ物にならないぐらい多く持っていることが分かっています。この自由電子が、電圧がかかったときに移動し、電気が流れるという状態になります。
では、半導体はどうでしょう? 金属ほどの自由電子は持っていませんが、外部からエネルギーを与えると自由電子が飛び出す性質を持っています。また、材料や作り方次第で自由電子が多い半導体(n型半導体)と、電子と対になる「正孔」が多い半導体(p型半導体)を作り分けることができます。
この2種の半導体を組み合わせることで、一方向にしか電流が流れないダイオードや、電流を流したいときだけ電流を流すような制御を行うトランジスタを作ることができます。ダイオードであれば電流が流れない方向から見れば、絶縁体となります。つまり、場合によって金属のような導体にも、絶縁体にもなるのが「半導体」ということになります。
最後に絶縁体です。絶縁体はシンプルで原子に自由電子をほとんど持っていません。実際には半導体のようにエネルギーをかけると自由電子を放出するのですが、それに至るまでに必要なエネルギーが大きく、電気を簡単には通しません。具体的物質としてはビニルやプラスチックなどとなります。誘電体も、この分類上は電気を(簡単には)通さない絶縁体に分類されます。
絶縁体に起きる絶縁破壊
電気を通さない絶縁体であっても、ある電圧以上の電圧がかかると電気が流れてしまいます。この現象を絶縁破壊と呼びます。半導体はエネルギーをかけると自由電子を放出しますが、一定の電圧以上のエネルギーをかけると絶縁体も自由電子を放出するという原子レベルの構造によるものです。
例えば、空気も一般的には電気を通さない絶縁体ですが、雲の中の静電気で高電圧状態となった際に大地との電圧差によって電気が流れます(落雷)。この落雷も空気に一定以上の電圧というエネルギーがかかったために発生する絶縁破壊です。これと同じようにビニル電線などの電線被覆や誘電体にも、許容電圧以上の電圧がかかると絶縁破壊を起こすため、注意が必要です。
静電気の帯電と放電
静電気は、電気を通さないプラスチックやビニルなどの絶縁体で発生します。プラスチックなどを毛皮や布でこすることで、物質内の電子が無理やり移動させられ、安定状態とは異なる、電気的な不平衡状態(電子と正孔の数が異なり電圧を持っている状態)となっているのが静電気です。
静電気が物質に発生している状態を、帯電と呼びます。マイナスに帯電しやすい物質(電子を受け取りやすい物質)とプラスに帯電しやすい物質(電子を放出しやすい物質)がありますが、帯電した物質に指や金属などが触れると電子を放出、または電子が流入し、安定状態に戻ります。これが静電気の放電です。
静電気は数kVという通常の電子回路では想定されないような高電圧になることがあります。この静電気が放電するとき、ICやコンデンサなどの電子部品を破壊してしまう場合があるのです。このため、帯電防止措置を取って静電気の発生を抑えたり、電子部品を静電気の放電から保護する回路を追加したりする必要があります。
コンデンサは、誘電体
コンデンサは誘電体を電極間に挟み込んだ構造です。誘電体の材料などによって多種多様なコンデンサがあります。
フィルムコンデンサ
電極間にポリエチレンなどのビニル類を挟み込んだコンデンサがフィルムコンデンサです。ビニルのため、電極間は電気的に完全に絶縁されます。また、寿命も長く安価なのですが、誘電体の比誘電率は3程度で、他のコンデンサと比べて低容量です。オーディオ機器のノイズ除去などに多く用いられます。
アルミ電解コンデンサ
アルミ箔でできた電極の間に電解紙を挟み込んだのがアルミ電解コンデンサです。
アルミ箔の表面に形成された酸化アルミニウムが誘電体です。比誘電率が8程度と比較的大きいため、大容量のコンデンサを作ることができます。しかし、電解紙には電解液が充填されていて、この部分から電極間を漏洩する電流があり、電極間を完全に絶縁することはできません。また、電解液は徐々に蒸発してしまうため、定期的に交換が必要な消耗品です。大容量の特性を生かして動力用インバータやパワーコンディショナーなどのパワーエレクトロニクス用途のコンデンサに使用されています。
セラミックコンデンサの種類と違い
近年では、セラミック新素材を誘電体として用いたコンデンサもあります。従来も、セラミックコンデンサとして、セラミックを誘電体とするコンデンサはあったのですが、フィルムコンデンサと同程度の比誘電率で、用途も限られていました。
近年、新素材開発により登場したチタン酸バリウムというセラミックがあります。比誘電率は4500と、今までの誘電体材料とは比較にならない大きさの容量です。この特性を生かして、コンデンサの電気をためこむ性質を生かした蓄電装置としての活用が研究されています。
高電圧での絶縁材料
高電圧の分野では、絶縁はとても重要です。高電圧を絶縁する場合に、機械的強度が必要なときは、碍子(がいし)が有効です。送電鉄塔や電車のパンタグラフなどで用いられる絶縁部品の碍子は磁器(セラミック)の一種です。大地に立っている鉄塔と送電線を絶縁しながら固定する用途に、機械的な引張強度が高く、絶縁性も高い碍子が使われてきました。
碍子のほかに、ゴム素材を使った絶縁を行うこともあります。その場合は、回路にかかる高電圧に対して、ゴム素材が絶縁破壊を起こさないよう絶縁耐力が必要です。
こうした高電圧の状態で絶縁耐力が保持されるかどうかを確認する試験が、実際に使用する電圧を絶縁材料に印加する絶縁耐力試験です。所定の時間の高電圧に耐えられた場合、試験電圧に対して絶縁耐力があると判断されます。
高電圧を印加するときの絶縁耐力が、製品の安全性や長寿命化につながってくるのです。
絶縁材料の一覧表
代表的な絶縁材料の比誘電率と絶縁耐力の一覧を掲載しています。絶縁耐力(kV/mm) の低い順に並べていますが、数値は代表値であり、温度・湿度・圧力・電極形状・不純物などの条件により大きく変化します。
| 材料 | 形態 | 比誘電率(εr) | 絶縁耐力(kV/mm) | 特徴・用途例 |
|---|---|---|---|---|
| CO2(二酸化炭素) | 気体 | 1.0 | 2.5-3 | SF6の低コスト代替。絶縁性能は低い。 |
| 空気(乾燥) | 気体 | 1.0 | 約3 | 最も一般的な絶縁媒体。耐電圧試験の基準。 |
| 窒素(N2) | 気体 | 1.0 | 3-4 | 空気より安定。高電圧機器の封入ガス。 |
| 水(純水) | 液体 | 約80 | 5-10(超純水)/<1(水道水) | 非常に高い比誘電率。純度が低いと急激に導電性が上がる。冷却や一部コンデンサ用途。 |
| SF6(六フッ化硫黄) | 気体 | 1.0 | 8-10 | 極めて高い絶縁強度。GISやX線装置に広く使用。温室効果ガスとして規制対象。 |
| 含浸紙 | シート | 3.5-4 | 8-15 | 変圧器・コンデンサ用途。油含浸で強度向上。 |
| 鉱物系絶縁油 | 液体 | 2.2-2.3 | 10-15 | 変圧器油。絶縁と冷却を兼ねる。 |
| エステル油 | 液体 | 3.0-3.2 | 10-15 | 鉱油代替の環境対応型。変圧器用途。 |
| 石英(SiO2) | 固体(結晶・ガラス) | 3.8-4.2 | 10-15 | 高い熱安定性と低損失。発振器・光学用途。 |
| アルミナ(Al2O3) | セラミック | 9-10 | 10-20 | 高強度かつ熱伝導性良好。高電圧基板や絶縁体。 |
| 一般セラミックス | 固体 | 6-10 | 10-20 | 用途広い。高電圧絶縁体やコンデンサ。 |
| ガラス | 固体 | 5-7 | 10-30 | 耐薬品性に優れる。真空封止、窓材、X線管。 |
| エポキシ樹脂 | 注型 | 3.6-4.2 | 15-25 | 封止・含浸材。耐湿性に優れる。高電圧部品のポッティング。 |
| ガラスエポキシ(FR-4) | 積層板 | 4.2-4.8 | 15-20 | 標準的なプリント基板材料。機械強度に優れる。 |
| アクリル(PMMA) | シート | 2.6-3.2 | 15-25 | 透明で加工しやすい。絶縁板や窓材。 |
| ゴム(天然・EPDMなど) | エラストマー | 2.5-3.5 | 15-30 | 柔軟性あり。ケーブル被覆やブーツ、ガスケット。 |
| シリコーンゴム | エラストマー | 2.8-3.2 | 20-25 | 柔軟かつ耐熱・耐候性良好。高電圧ケーブルや屋外用絶縁。 |
| シリコーン油 | 液体 | 2.7-2.9 | 15-20 | 耐熱性に優れる。高電圧電源やX線機器用途。 |
| パラフィンワックス | 固体(ワックス) | 2.1-2.4 | 20-30 | 安価な絶縁材。歴史的にコンデンサやポッティングに使用。 |
| PTFE(テフロン®) | フィルム・絶縁体 | 2.1 | 60-100 | 誘電損失が非常に小さく耐薬品性に優れる。高周波回路や高電圧ケーブル。 |
| 雲母(マイカ) | シート | 6-7 | 100-200 | 優れた絶縁強度と耐熱性。高電圧コンデンサやモータ絶縁。 |
| ポリエステル(PET, マイラー®) | フィルム | 3.2 | 150-200 | 安価で加工しやすい。フィルムコンデンサやライナー用途。 |
| ポリイミド(PI, カプトン®) | フィルム | 3.4 | 200-300 | 耐熱性と絶縁強度が非常に高い。モータ巻線やフレキシブル基板。 |
| チタン酸バリウム(BaTiO3) | セラミック(強誘電体) | 1000-5000 | 10-15 | 非常に高い比誘電率。積層セラミックコンデンサや光学素子に使用。 |
| 真空(10-3 Pa以下) | 気体代替 | ≈1.0 | 約20(実効値) | 十分な真空度で高絶縁。X線管や真空遮断器。表面フラッシオーバーは電極形状に依存。 |
- 数値は代表値であり、環境条件や形状に強く依存します。
- 水は純度により性質が大きく変化。超純水は絶縁性が高いが、一般の水は導電性。
- チタン酸バリウムは比誘電率が非常に高いが、絶縁耐力は一般セラミックと同程度。主にコンデンサ用途。
- SF6は優れた絶縁ガスだが温室効果ガスであるため、代替や削減策が進められている。
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