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技術コラム

核融合発電と原子力発電の違い

原子力発電の安全性が再び議論となり、同じ「核」でも安全な核融合発電が注目されています。特にプラズマを磁場で閉じ込めるトカマク型核融合炉は、国際熱核融合実験炉「ITER」でも採用されるなど、実用化に向けて大きく踏み出しています。一方、「核」と付いていることから「怖い」というイメージを持つ人も多いのではないかと思います。今回は核融合発電とはどんなものなのか、従来の原子力発電との違いを解説します。

核融合発電とは?-そのメリット、デメリット

核融合発電の「核」とは「原子核」のことを指しています。従って核融合発電というのは「原子核を融合させることによって発電を行う」という技術です。これはアインシュタインが相対性理論の発表の際に出した
E=mc2
という有名な式に関連しています。この式でEはエネルギー、mは質量、cは光速度を表します。

もう少し詳しく解説します。原子核はすべての原子の中にあり、元素の種類によって重さは異なります。例えば水素は大抵の場合重さ(原子量といいます)は1で、炭素なら12、酸素なら16となっています。ただし原子核内にある中性子の数の違いによって、水素でも原子量が2とか3のものもあります。

水素原子 - 核融合発電と原子力発電の違い
水素原子(左から水素、重水素、三重水素)(©WhiteTimberwolf CC表示-継承 3.0)

一方重たい原子核では、ウラン235やウラン238など、水素の200倍以上もの重さを持つ原子核もあります。「核」関連で有名な元素にはプルトニウムは239などもあります。人工的に造られた元素にはもっと重たいものもあり、理化学研究所が合成に成功したニホニウムの原子量は286です。

さて軽い元素は複数の元素がくっついてより重い元素に変化します。これを「核融合」と呼びます。
核融合発電では重水素と三重水素が核融合を起こしヘリウム元素に変化する「核融合反応」を利用します。水素がヘリウムになる核融合反応は太陽の中で実際に起こっている反応でもあります。

この際、元になった反応前の重さよりも反応後の重さの方が軽くなっています。その分が先の公式で計算されたエネルギーに変わり、太陽はこのエネルギーで光り続けています。そしてこのエネルギーを使って発電しようというのが「核融合発電」です。

具体的には、核融合反応で発生したエネルギーで水を沸騰させ高温の水蒸気を作ります。この水蒸気をタービンに当てることで回転させると、タービンに繋がっている発電機が電気を発生させます。ちなみにこの水蒸気を発生させる熱を天然ガス、石油、石炭などを燃やして作っているのが「火力発電」です。

核融合反応 - 核融合発電と原子力発電の違い
核融合反応(D-T反応)

核融合発電の良い点は、火力発電のようにCO2を発生させない、「カーボンフリー」であるという点です。もちろん

  1. 燃料となる重水素は海水から採取できるので、日本は無尽蔵の資源を持っている
  2. 原子力発電と異なり核爆発の心配は無い

というのも大きなメリットです。核融合は反応を維持するのが大変なため、核融合炉が破損した場合には勝手に反応が止まってしまいます。従って外に燃料である重水素が漏れ出す心配も無いのです。詳しくは後ほど述べましょう。
一方でデメリットとしては、反応の過程で利用する中性子が核融合炉壁や建物を放射化するため、少量の低レベル放射性廃棄物が出てしまうことです。

原子力発電とは?

では同じく原子核を使っている原子力発電とはどの様なものでしょうか。先ほどの核融合とは異なり「核分裂」によって出てくるエネルギーを利用しているのが原子力発電です。
例えばウラン235の原子核は中性子を当てると不安定になり、複数の軽い元素に分裂します。

核分裂によるエネルギー発生のしくみ - 核融合発電と原子力発電の違い
核分裂によるエネルギー発生のしくみ

この際、元のウラン235よりも分裂後の元素を全部足した質量が軽くなっているため、その差分がエネルギーとして出て来ます。出て来たエネルギーで水蒸気を発生させてタービンを回しているところは火力発電と同じです。

原子力発電所の構造 - 核融合発電と原子力発電の違い
原子力発電所の構造

問題点を挙げるとすればウラン235が放射能を持っているという点です。反応速度を上手くコントロールできなくなると原子炉が爆発を起こすこともあり、ウラン235やプルトニウム239などが周辺に飛び散るまたはまき散らされます。これがチェルノービリ(チェルノブイリ)原発や、福島第一原発で発生した事故だったのです。
また爆発事故を起こさなくても、分裂後の元素も放射能を持っている場合がありますので、残った核廃棄物をどの様に処理するのかも問題点です。

研究分野での核融合と核融合発電の違い

では核融合発電はどの程度開発が進んでいるのでしょうか。実のところ商用になるレベルの発電所はまだまだできていないというのが現状です。
核融合は太陽の中で起こっている反応でもあるため、燃料となる重水素を超高温状態にしてぶつけることで反応を起こさせる必要があります。しかも重水素を超高温にするには他の気体が存在すると邪魔になるため、真空状態にしなければなりません。そして反応炉内から飛び出さないように強い磁場で閉じ込める必要があります。
もう一つ、大出力のレーザーを周辺360度から当てることで重水素を封じ込めて核融合を行う「レーザー核融合」という方法もあります。

ただしこれらすべての条件を達成するためには、莫大なエネルギーが必要となります。エネルギーを取り出すために核融合を行おうとしているのに、その核融合を行うには莫大なエネルギーが必要だという、よくわからない状況になっているわけです。
研究レベルではどれだけエネルギーを投入しようが、核融合反応さえ確認できれば構いません。ですが発電を行うためには投入した以上のエネルギーが取り出せなければ意味がありません。例えば単位はkWでもMWでもGWでも構いませんが、1のエネルギーを投入したら1.1のエネルギーが取り出せたという事が必要です。1を投入して0.9しか取り出せないようでは商用発電には使えません。

では現在はどこまで進んでいるのでしょう。人類が初めて人工的に核融合反応の発生に成功したのは1968年、旧ソ連の開発した磁場による封じ込め方式の核融合炉でした。当然のことながらこの頃は取り出せたエネルギーよりも投入したエネルギーの方が何桁も多かったのです。
世界で初めて投入したエネルギーよりも取り出したエネルギーが上回ったと考えられる実験結果を出したのは1998年、当時の日本原子力研究所が保有していた核融合実験炉JT-60でした。それでもまだまだ発電に使えるほどのものではありませんでした。

現時点では
Q=出力エネルギー ÷ 投入エネルギー
とし、Qの値が5~10程度になるように核融合発電の研究が進んでいます。

JT-60 - 核融合発電と原子力発電の違い
JT-60

核融合炉の構造

では核融合炉とはどの様な構造をしているのでしょうか。大きく分けると「磁場閉じ込め型」と「慣性閉じ込め型」の2つがあります。この中でも最も研究が進み、ITERでも採用されているのが「磁場閉じ込め型」で研究の歴史も長い「トカマク型核融合炉」です。JT-60もこのタイプです。先ほど紹介した「レーザー核融合」は「慣性閉じ込め型」タイプです。

トカマク型では核融合炉内を真空状態にし、そこに1億度以上(1.2億度以上が目標)に加熱しプラズマ化した燃料を投入します。プラズマというのは原子からすべての電子を剥ぎ取り、原子核のみにしたものです。
ですがそのままですと燃料のプラズマは核融合炉の壁にぶつかってエネルギーを失う、つまり冷えてしまいますので、温度を超高温に保てるよう強い磁場で狭い領域に閉じ込めます。

この磁場はトロイダル方向に流した電流で生み出されます。この電流をプラズマ電流と呼び、このプラズマ電流が大きいほどプラズマの性能が高くなります。ですが、このプラズマ電流が生み出す磁場の強度はJT-60でも4.0T(テスラ)、ITERでは5.2Tにもなります。プラズマ電流の値は1500万Aにも及びます。
これだけの大電流を安定して流すには超伝導素材が必須です。抵抗があるとそのぶん熱が発生してしまいますので、余分な電力が必要となるからです。ITERではNb3Sn 超伝導素線が使われていますが、高温超伝導体ではありません。従って冷却にもそれなりの電力が必要です。

こうして閉じ込めたプラズマの状態はプローブ法という方法で測定します。一般的にはラングミュアプローブと呼ばれます。
この方法ではプラズマに微小電極を挿入し、基準電極に対して電圧を印加して得られる電流-電圧特性から諸量を測定しています。安定した核融合に繋がるパラメーターはどの様な値なのか、実験が続けられているのです。

トカマク型磁気閉じ込め方式 - 核融合発電と原子力発電の違い
トカマク型磁気閉じ込め方式

核融合発電の開発状況

最後に核融合発電の現状をお話ししましょう。世界的には国際熱核融合実験炉「ITER」が核融合発電に必要な基礎的な技術を確立できるものと考えられています。このITERは日本を含む各国が誘致をしましたが、最終的にはフランスのカダラッシュに建設が進められています。2025年には運転を開始する予定で、そこから様々な実験を開始。2035年には安定的な核融合運転を実施しようとしています。

このような状況を受けて民間でも核融合炉を開発しようという動きが出てはいます。例えば2014年にはアメリカのロッキード・マーチン社が「10年以内にトラックに積み込める大きさの100MW級商用小型核融合炉を開発する」と発表しましたが、その後の進展は芳しくないようです。
それでもグーグルや、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツなどが開発を後押ししています。

一方日本ではどうかというと、リスクを取らない投資が主流であるため、宇宙開発と同じでなかなか進んでいないというのが現状です。
また「次世代原発」というイメージの悪い言葉で語られる事も多いため、発電自体がクリーンであることや、資源が無尽蔵にあることなどよりも言葉の持つイメージの悪さで敬遠されることが多いようです。しかし今後のエネルギー政策を再生可能エネルギーと2本柱で支えうる資源ですし、日本が世界的にもトップレベルの技術を擁していますので、広がってくれれば良いのですが。

参考文献