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技術コラム

蓄電池の種類

二次電池である蓄電池には、その方式によって様々な特徴があります。まずはその種類を紹介しましょう。

LiB

まずはリチウム・イオン蓄電池です。スマートフォンのような小型のものから電気自動車や航空機に搭載されるものまで、様々な用途に利用されています。エネルギー密度が高く、同じ容量でも小型で軽量にできることが特徴です。

NiMH

次にニッケル水素蓄電池です。eneloopやevoltaなど、市販されている単三、単四形などの乾電池型充電池は、ほぼこれになっています(一部でNiCd蓄電池も残っています)。ただし、過充電を防ぐための回路が製品によって異なっているため、液漏れや寿命劣化を防ぐためには専用の充電器を利用しなければいけません。

鉛蓄電池

3つ目は鉛蓄電池です。負極に鉛Pbを、正極には二酸化鉛PbO2を使用し、電解液として希硫酸を使用しています。このため鉛蓄電池を呼ばれています。自動車やオートバイの始動用12Vバッテリーとして汎用モジュール化されているため、身近に存在する蓄電池と言えます。

NAS電池

NAS電池は負極にNaを、正極にSを用いた、1967年にフォードモーターが原理を発表し、日本ガイシ株式会社が世界で初めて実用化した蓄電池です。両電極を隔てる電解質にはファインセラミックスを用いています。通常の蓄電池と異なるのは、電極に用いられているNaとSは液体で、電解質であるファインセラミックスが固体という点です。

主に太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーを利用した発電所に併設され、給電する電力量を調整し、電力品質を保つのに使用されています。

NAS電池の構造です。

レドックスフロー電池

最後にレドックスフロー電池です。1970年代にNASAが基本原理を発表したもので、レドックスというのは還元(reduction)と酸化(oxidation)を組み合わせた造語です。セルの中に電極を取り付け、中央部に水素イオンのみが通り抜けられる隔膜を配置します。そして隔膜で分離されたそれぞれの電極に、外部のタンクから異なる2種類の電解液をポンプで循環させて酸化還元反応を進行させ、充放電を行います。現在実用化されているのはどちらの電解液についてもバナジウム系の溶液を利用するものです。正極では5価のバナジウムイオンが4価に、負極では2価のバナジウムイオンが3価になることによって電子を負極で放出し、正極に移動させることができるようになります。充電時には逆反応が生じます。

こちらもNAS電池と同じく、自然エネルギー系の発電所に併設されています。

レドックスフロー電池の原理です。

蓄電池によって異なる特徴

では続いて、蓄電池毎の特徴を紹介しましょう。

LiB

リチウム・イオン蓄電池は起電力が3.7V程度で、単体で高電圧を実現している点がメリットです。起電力は正極に使用する酸化リチウムの種類によって異なります。主な素材としてはコバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、リン酸鉄リチウム(LiFePo4)などが使われています。この中でコバルト系とマンガン系は最大電圧4.2Vです。一方、リン酸鉄系は3.6V程度と電圧は低くなりますが、充放電サイクル寿命が3~4倍になります。また、メモリ効果がないのもメリットです。

ただし、デメリットとして非常に高い反応性を持つLiを使っているため、後述のNAS電池同様、安全対策が重要です。リチウム・イオン蓄電池は円筒形、角形、ラミネート・タイプの3種類がありますが、円筒形は充放電サイクルによって発生するガスの内部圧力が逃げにくいため、破裂する時には大きな被害を周囲に与えます。それと比較すると角形は缶がふくらみやすく、内部圧力を逃がしやすくなっています。最も圧力を逃がしやすいのがラミネート・タイプですが、ふくれやすいということを意味しています。万が一ふくらんできた場合には、それ以上の使用を取りやめるべきです。 充電にはCC・CV充電を用います。後述する鉛蓄電池の急速充電と同じ原理です。最初は決まった電流(CC:例えば1Cの電流)で充電をしますが、電圧が4.2Vに到達した段階で今度は定電圧(CV)で充電を行います。電流は満充電に向かって、徐々に下がっていきます。ただしリチウム化合物は扱いが難しく、過充電が重大な事故を引き起こします。そこで、1セル電圧が4.30±0.05V以上で充電停止にするなどの保護機能が必須になっています。

NiMH

ニッケル水素蓄電池は起電力が1.2Vで、NiCd蓄電池とほぼ同じですが、カドミウムを使用していませんので、環境負荷が低くなっています。負極に水素吸蔵合金を使用することで水素を効率よく出し入れできるようになっているため、同じ電圧であるにもかかわらず、NiCdよりもエネルギー密度が高くなっています。コンビニでも購入できる手軽さも、NiMHのメリットでしょう。

ただしデメリットとしてメモリ効果が挙げられます。そのため充放電には気をつける必要があり、継ぎ足し充電を繰り返すと電圧低下が起こり、機器を動作させるのに必要な電圧を維持できなくなる可能性が高くなります。
充電にはCC充電を用います。満充電に向かって電池電圧が上昇しますが、過充電になると電圧が低下します。ここで充電を止める必要がありますので、制御回路には-ΔV制御を行います。温度上昇を検知する絶対温度制御(dT/dt制御)を併用することもあります。これはNiCd蓄電池も同様です。

鉛蓄電池

鉛蓄電池は起電力が約2.24Vで、比較的高電圧を得られる蓄電池です。放電サイクル回数が多い用途はあまり得意ではありませんが、メモリ効果もなく、手軽に入手できるのがメリットです。市販されている12Vバッテリーは、蓄電池6つを直列で繋ぐことにより実現しています。

温度変化に強いこともメリットです。車載用のバッテリーの場合、放電特性の仕様を満たすのは80度~-18度までの範囲となっています。場合によっては-30度でも利用可能ですが、適正温度としては25度が推奨されています。その理由は低温環境下で使用する場合、放電が進むにしたがって電解液の濃度が低下してしまうことから、電解液が凍結してしまい、放電を続けることができなくなる、またはそこまでは至らなくても取り出せる電気量が小さくなるという問題点があるからです。
デメリットは先にも書いた通り充放電サイクル回数が少ないことで、これは充放電による電極の膨張・収縮の繰り返しによって、電極板がボロボロになってしまうためです。

充電にはCV充電を行いますが、急速充電を行いたい場合にはVテーパー充電やCC・CV充電を用います。電流・電圧を細かくコントロールするCC・CV充電に対し、Vテーパー充電だと電圧の急上昇が発生したら充電を打ち切るだけなので、比較的安価に回路設計を行う事ができます。

NAS電池

NAS電池内部では、放電時に下記の反応が起きます。

負極:Na → Na+e
正極:xS+sNa+2e → Na2Sx

Naが一価のイオンになる事で電子を放出し、一方正極では多硫化ナトリウムが生成されます。充電時はこれが逆の反応になります。NAS電池はリチウム・イオン蓄電池とほぼ同等のエネルギー密度を持ち、自己放電も行いません。また急速充放電できるのもメリットです。

一方デメリットもあります。最も大きいのは負極に非常に高い反応性を持つNaを使用しているため、発火の可能性があります。少しでも孔やすき間ができたりすると、空気中の水蒸気と反応して熱を発します。そのため、NAS電池を開発する際には外部加熱、水没放置、落下、外部短絡など、さまざまな安全性能確認試験を行う必要があります。

レドックスフロー電池

レドックスフロー電池は充放電サイクル寿命が1万回以上と長く、10年以上利用できるという点がメリットです。バナジウム溶液を主体とする電解液は不燃性で、電池の運転も常温で行われます。そのため発火や爆発などの危険性もなく、耐熱等の必要が無いため、20年を超えての運用も可能だとされています。

また、蓄電量は電解液の量で規定される上、出力も電池セルスタックの大きさで規定されるため、これらを個別に設計することが可能です。これも設計開発する上でのメリットとなります。
逆に小型化は不可能なため、大型施設に限定されます。これは重量エネルギー密度が25~35Wh/kg程度しかなく、リチウム・イオン蓄電池の80~200Wh/kgと比較すると半分から1/8しかないことも理由です。電解液を工夫することでエネルギー密度を上げられない限り、小型化は難しいと言わざるを得ないでしょう。

それぞれの電池での充電方式
蓄電池種別 充電方法
ニッケル・カドミウム蓄電池
ニッケル水素蓄電池
ニッケル・カドミウム蓄電池とニッケル水素蓄電池の△V方式のグラフです。

△V方式(定電流・低電圧方式)

満充電直前で電圧が下降する特徴を利用し、電圧値の下降を検知したら充電を打ち切る。

ニッケル・カドミウム蓄電池とニッケル水素蓄電池のdT/dt方式のグラフです。

dT/dt方式(絶対温度制御方式)

充電完了直前で急速に温度が上昇する特徴を利用し、温度上昇率が設定された値を超えたら充電を打ち切る。

鉛蓄電池
鉛蓄電池のCV方式のグラフです。

CV方式(定電圧方式)

一定の電圧で充電を行う。満充電に向かって徐々に電流値は下がっていく。

鉛蓄電池のVテーパー方式のグラフです。

Vテーパー方式

一定電圧までCC方式で充電を行い、設定された電圧値に達したら充電を打ち切る。制御が簡単だが、満充電できない

鉛蓄電池のCC・CV方式のグラフです。

CC・CV方式(定電流・定電圧方式)

一定電圧まではCC方式で充電を行い、設定された電圧値に到達した後はCV方式に切り替える。満充電できるが細かい制御が必要

リチウム・イオン蓄電池
リチウム・イオン蓄電池のCC方式のグラフです。

CC方式(定電流方式)

一定の電流量で充電を行う。過充電を防ぐために、一定電圧に達した場合や一定時間で充電を終える制御が必要。

リチウム・イオン蓄電池のCC・CV方式のグラフです。

CC・CV方式(定電流・定電圧方式)

一定電圧まではCC方式で充電を行い、設定された電圧値に到達した後はCV方式に切り替える。満充電できるが細かい制御が必要。

参考文献