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技術コラム

アンプの種類と特性

インターネット上で「アンプ」で検索すると、音楽や音源のサイトが結果として数多く表示されます。ですが「アンプ」自体は音楽のためだけのものではありません。そもそも「アンプ」という言葉は、「増幅する」という意味のアンプリファイア(amplifier)から来ているのです。つまり何かを「増幅する」装置がアンプだということです。日本語では「増幅器」とも呼ばれます。 もちろん、音楽も含めて電気回路では様々な信号がすべて電気信号としてやりとりされています。ですからアンプは電気回路を流れる信号を増幅するためのもので、基本的には入力された電流や電圧を増幅します。センサーから出力される電気信号を増幅し、A/D変換しやすくするなどの動作を担当しています。

アンプの種類と特性

アンプはアナログ回路の代表で、アナログ回路からアンプを取りのぞくと何も無くなってしまうのではないかと思えるほど、その中核を成しています。 またアンプは任意の電圧・電流(電力)を供給できるため、電源シミュレータとしても利用可能です。実のところ、電源もアンプの一種なのです。一般的な直流電源はユニポーラ(電源)とも呼ばれます。
これがプラスマイナスの出力が可能になると二象限バイポーラ電源、さらに吸い込みができるようになると四象限バイポーラ電源と呼ばれます。四象限バイポーラ電源については、最後に詳しく紹介します。

増幅素子の特性

アンプには大きく分けると「リニアアンプ」「デジタルアンプ」の2つがあります。
「リニアアンプ」は回路を構成するトランジスタやFETなどの増幅素子の特性上、入力に対して出力が線形になる周波数領域と、非線形になる領域があります。特に入力がゼロに近い領域では非線形になるため、素子への入力ON/OFFの動作によって、出力される波形にひずみが生じます。そのため、入力信号がどの領域にあてはまる状況で使うかが重要になり、それに伴ってA級、B級、AB級の3種類に分けられます。

A級アンプ

素子の線形領域のみを使用します。そのためリニアリティは高くなりますが、入力がゼロに近い場合もバイアス電流(または電圧)を流す必要があり、効率の悪化と大きな発熱を伴うという欠点があります。つまり、出力が正しく行われるように、入力がゼロの場合でも常に一定のバイアス電流を流し続けているのです。

B級アンプ

増幅素子の非線形領域・線形領域の両方をそのまま使用します。そのため、入力信号がゼロ付近では出力もゼロとなってしまい、ひずみが発生します。その代わりA級アンプのようなバイアス電流が不要で、効率は良くなります。

AB級アンプ

A級とB級の良いとこ取りをしたアンプです。B級アンプにバイアス電流を加えることでひずみを改善(消えはしない)しています。

プッシュプルで動作させたときのひずみの違い

もう一つのアンプは「デジタルアンプ」です。スイッチングアンプ、D級アンプとも呼ばれます。こちらはPWMなどのスイッチング技術を用いることで、リニアアンプと比較すると高効率かつ小型化されています。主にオーディオアンプ に用いられています。
スイッチング素子にはMOSFETやIGBTなどが用いられていますが、対応している入力信号の周波数帯域が狭いという問題点もあります。

アンプ

アンプの安定動作に必要な条件

ここまで、アンプの種類や特性について説明してきました。ここからはその設計時や導入時に、どの様なことに注意するべきなのかを紹介していきます。

周波数帯域

電流、電圧の出力値が安定するためには、それらを阻害する幾つかの要因をしっかりと把握しておく必要があります。まずは周波数帯域です。これはアンプの動作速度に対応します。アンプは高周波になると入力信号に追随できなくなり、振幅が小さくなっていきます。図は振幅が-3dBになるまでの周波数を周波数帯域で表しています。

周波数帯域

例えば定格120Vのアンプの周波数帯域が20kHzの時、±20Vで20kHzの正弦波を出力しようとしても、-3dBでは出力振幅が70%になってしまうため、±14Vの正弦波となってしまうということを示しています。そのため、使用したい周波数に対して、余裕のある周波数帯域を持つアンプを選定する必要があります。
立上、立下時間は周波数帯域と関係しています。一般的に応答速度(=周波数帯域)fc(Hz)のアンプの立上り時間はtr≑0.35/fcで求められます。

スルーレート

2つ目はアンプの対応速度を表すスルーレートです。これはアンプの最大電圧上昇速度を示しています。一般的には1µsあたりの電圧変化量で表します。
アンプの応答速度は周波数帯域で制限される場合と、このスルーレートによって制限される場合があります。ステップ応答がスルーレートで制限される場合は図の様に立上波形が直線になります。

スルーレートで制限されるとき

スルーレートで制限されるとき

周波数帯域で制限されるとき

周波数帯域で制限されるとき

誘導負荷

ここまでは速度に起因するものでしたが、ここからは負荷に関するものを紹介します。まずは誘導負荷です。
誘導負荷では、電圧電流の関係はインダクタンス値Lに対してV=L×di/dtの関係にあり、定電流(CC)制御において高速動作させようとしたときに発生する電圧が問題となる事があります。
例えば立上速度の速い方形電流を出力しようとしたとき、電圧が過電圧保護によって制限されるため、望む波形が得られない場合があります。対応としては入力信号の立上速度を遅くし、発生する電圧に対応した機種を選ぶ必要があります。

スルーレートで制限されるとき

また入力信号にデジタル制御等のステップ状の信号を使用すると、同様に多数の電圧パルスが発生することになります。これが問題となる場合もありますので、入力はできる限り連続した波形での入力を推奨します。
逆に出力状態においては過電圧保護により制限がかかりますが、急に出力がOFFされると、保護が効かずに誘導負荷から大きな電圧が発生する恐れがあります。

容量負荷

2つ目は容量負荷です。容量負荷では、電圧電流の関係は容量Cに対してI=C×dV/dtの関係にあります。誘導負荷とは逆に定電圧(CV)制御において高速動作させようとするときに大きな電流を必要とします。大きな容量を扱う場合には負荷特性と電源の出力特性を把握して使用してください。

ダイオード負荷

3つ目はダイオード負荷です。定電流(CC)制御では、無負荷状態で電流コントロールをゼロとしても、微小なオフセットの影響で出力電圧がプラスまたはマイナスの過電圧保護レベルに上昇します。
ダイオードなど順方向にしか電流を流さない負荷においては、電流コントロールがゼロの時でも逆方向に過大な電圧を出力することがあるということです。これが負荷の耐電圧を超えると故障の原因となる場合がありますので、逆方向にも保護用のダイオードを入れるなどの対策が必要となります。

ケーブルの容量、インダクタンス

最後にケーブルです。アンプを高速動作させるとき、出力ケーブルの持つ容量やインダクタンスの影響が無視できなくなります。
高電圧アンプでは、出力ケーブルが出力線とシールドの間の容量を持つため、その容量が影響して電圧波形の立上速度が制限されます。ケーブルが長くなると容量も増すため、影響が大きくなります。音楽マニアの間で抵抗が少ないケーブルを使い、長さを最低限に留めるようなシステム構築を行うのは、これが理由です。
また低圧の大電流モデルではケーブルの持つインダクタンス、配線の仕方によって発生するインダクタンスが大きく影響し、電流波形の立上速度が制限されます。これは配線をツイストするなど、電流ループを小さくすることにより、ある程度影響を軽減することができます。

四象限バイポーラ電源

最後にアンプの進化形として、高性能なアンプである四象限バイポーラ電源を紹介しましょう。アンプは基本的に出力電流の吸い込み機能があります。そのため容量負荷や誘導負荷およびこれらの複合した負荷であっても定電圧動作が可能になっています。しかも高速に応答しますので、まさに理想的な電源と言えます。
一般的な電源は電流を一方向にしか出力することができませんが、四象限バイポーラ電源では、電圧をプラスマイナスどちらにも出力できることに加えて電流も吸い込み機能以外にも、吐き出し機能の両方の機能を持っています。 誘導負荷や容量負荷に交流を印可する場合、同じ電圧でも電流がプラスの時とマイナスの時があります。このような負荷を動かす場合に四象限バイポーラ電源が必要になってきます。

 誘導負荷での電圧電流波形
電流の供給と吸収の図 電流の供給と吸収の図

Vo max:定格出力電圧
Io max:定格出力電流

四象限バイポーラ電源での定電圧(CV)制御では、入力に応じた電圧を出力しますが、このとき出力電流は定格以内であれば吐き出し、吸い込みともに自由な値を取ることができます。
同様に定電流(CC)制御では入力に応じた電流を出力します。このとき出力電圧は定格以内であればプラスマイナス自由な値を取ることができます。
ただし過電圧保護と過電流保護機能によって出力制限がされるため、望みの波形が得られない場合があります。電圧・電流ともに定格以内になるように動作していることが望ましく、負荷の特性を把握しておくことが、電源の安定使用には重要です。

参考文献