ダイオードの仕組み
ダイオードは、電気の流れを一方通行にする電子部品です。トランジスタやICなどと同じ「能動部品」と呼ばれます。半導体を用いた基本的な部品です。電気の流れを整えたり、電圧を一定にしたり、検波したりできます。
まず、ダイオードに使われている「半導体」の性質について整理しておきましょう。「この物質は電気を通せるか?」を基準として「導体」「半導体」「絶縁体」に区分されます。「半導体」とは、電気を良く通す導体と電気を通さない絶縁体の中間の性質を持つ物質です。
一般的に金属は電気をよく通しますが、これは金属元素同士が結合する際に各原子の電子が自由電子になるからです。電圧を加えると、金属結晶内の自由電子が動き回り、電荷を運ぶことで電気が流れる仕組みになっています。
半導体は、流れてくる電気の状態によって導体としてふるまったり、絶縁体としてふるまったりします。半導体は金属のように豊富な自由電子を持ちません。電圧がかかると、電子が足りない穴を埋めるように電子が順番に動いていったり、金属結合よりも少ない自由電子で電気を運んだりします。
電気を流す仕組みの違いによって、半導体はP型半導体とN型半導体に分けられています。P型半導体は前者の電子が足りない穴を埋めるように順番に動いていくものです。シリコンのような4価元素にホウ素やボロンなどの3価の添加物を混ぜたものがP型半導体になります。電子が1つ足りないので、正に帯電していると考えます。
N型半導体は後者の金属結合よりも少ない自由電子で電気を運ぶものです。シリコンのような4価元素にリンなどの5価の添加物を混ぜたものがN型半導体になります。電子が1つ余っていますので、負に帯電していると考えます。
このP型半導体とN型半導体を1つの結晶としてつなげたものがPNダイオードで、ダイオードの中では最も一般的に使われています。PNダイオードではP型半導体につながる電極をアノード(A)、N型半導体につながる電極をカソード(K)と呼びます。(図①)
PNダイオードのアノード側に-を、カソード側に+を接続すると、半導体内の電気が電極側に引き寄せられ、PNの結合部に電気の空白地帯が発生します。そのため電気は流れません。(図②)
逆にアノード側に+を、カソード側に-を接続すると、半導体内の+と−の電気がPとNの接合部でくっつき、それぞれの電気が相殺されますが、電極から次の電気が送られるため、電気が流れます。(図③)
このようにダイオードは決まった方向にのみ電気を流す性質を持っています。私たちの生活の中でよく見られる発光ダイオード(LED)はPN接合部に電気が流れるときに発光するようにしたものです。ダイオードは、私たちの目に見えない場所でもさまざまな場所で使われ、私たちの生活を支えています。
ダイオードの役割
ダイオードの主な役割は次の4つです。
①整流作用
一般的な電源は交流電流のため、電流の方向が常に入れ替わっています。ダイオードには決まった方向の電気しか流さない性質がありますので、交流電流のうち順方向の電流のみを取り出せます。これをダイオードの整流作用といいます。
②検波
ダイオードはラジオなどの電波から音声信号を取り出す役割があります。これを検波といいます。ラジオの電波は、本来の通信に使われる高周波に音声などの低周波を合成して作られます。
③電圧制御
一般的には決まった方向にしか電流を流さないダイオードですが、逆方向の電圧が一定値を超えると電圧が流れ始めます。その際には流れる電流が増えても電圧が変わらない性質を持っています。これを降伏現象と呼び、降伏現象が発生した電圧を「降伏電圧」、または「ツェナー電圧」と呼びます。
降伏現象を利用したのがダイオードの電圧制御で、この使い方をするダイオードはツェナーダイオードと呼ばれます。
④電流変換
ダイオードの中には光を電流に変える性質を持っているものもあります。PN接合部に光が当たると、接合部近くにあるN側の電子が移動します。そのため、光が当たっている間はずっと電気が流れ続けるようになります。これを利用したのが太陽電池です。
外部から電圧を加えていない状態では電池として作用しますが、電圧を加えているときはダイオードとして働きます。可視光によって反応するものもありますが、目に見えない光で反応するものは赤外線リモコンの受光部などに利用されます。
ダイオードの種類
ダイオードにはさまざまな種類があります。特に代表的なものを下記に紹介します。
シリコンダイオード
最も一般的なPNダイオードです。整流ダイオードを意味することがほとんどです。
ゲルマニウムダイオード
シリコンダイオードと同様にPNを結合したダイオードです。特に流れる電流が0.1mA程度と小さい領域において順方向下降電圧が低いため、検波によく使われてきました。しかしゲルマニウムが高価であるなどの理由から、現在はショットキーバリアダイオードなどが多く使われています。
ショットキーダイオード
金属と半導体を接合したダイオードです。シリコンダイオードなどに比べスイッチング特性に優れているため、高速回路などに使用されます。
スイッチングダイオード
スイッチのように電源回路を開閉する目的で使われるダイオードです。電源が流れる方向に電圧をかけるとONになり、流れない方向に電圧をかけるとOFFになります。
ファーストリカバリーダイオード(FRD)
ファーストリカバリーダイオード(FRD)は、高速動作が可能なPN接合ダイオードです。これは、逆回復時間(trr)が一般的な整流ダイオードよりも短いダイオードで、高速ダイオードの一種とされます。FRD は、順方向に流れていた電流が逆方向に切り替わる際の逆回復電流が素早く減衰し、オフ状態へ移行しやすいため、スイッチング損失を抑えることができます。
そのため、高電圧スイッチング電源や昇圧コンバータを構成する PFC 回路の整流用ダイオードとして使用されます。
エサキダイオード
ノーベル賞を受賞した江崎玲於奈によって発見されたトンネル効果を利用したダイオードです。トンネル効果とは、不純物濃度の高いPN接合ダイオードでは、量子力学的効果により、本来ならば電流が流れない状態でも電流が流れるという性質です。非常に応答速度が速いため、マイクロ波を発生させるために使用されます。
発光ダイオード
PN接合部に電流が流れる際に接合部が発光するダイオードです。半導体に電気が流れるときは、P型半導体の正孔と電子が結合するので、その際にエネルギーが光となって放出される仕組みです。電源ランプと整流装置を兼ねて使われることもあります。
ツェナーダイオード
本来電流が流れる方向と逆方向に電圧をかけて使うダイオードです。定電圧を得る目的の他、過電圧から回路を保護する目的でも使用されます。
新世代のSiC-SBD
SiC-SBDとは、Silicon Carbide Schottky Barrier Diodeの略で、炭化ケイ素(SiC)を材料としたショットキーバリアダイオードです。従来のSiベースのショットキーバリアダイオードよりも、順方向電圧降下(Vf)低く、電力損失が少なくなります。また、リカバリー時間がほぼゼロで、高速スイッチングなど高周波動作に適しています。SiCは、バンドギャップが広いため、耐電圧が高く、高温環境でも安定動作します。これらの特徴から、SiC-SBDは、スイッチング電源やインバータなど高効率・高耐圧が求められる電力変換システムで活用されています。
以下に、Si-SBDとSi-FRD、SiC-SBDの比較を掲載します。
| 項目 | Si-SBD | Si-FRD | SiC-SBD |
|---|---|---|---|
| シリコンショットキーバリアダイオード | シリコン高速回復ダイオード | シリコンカーバイドショットキーバリアダイオード | |
| 材料 | Si(シリコン) | Si(シリコン) | SiC(炭化ケイ素) |
| 逆電圧(VR) | ≤200V | 200~1,200V | 650~1,700V |
| 順方向電圧(VF) | 0.3~0.7 V | 1.2~2.0V | 1.0~1.8V |
| 逆漏れ電流(IR) | 最高、高温時に大幅に増加 | 高温時には低、中程度の増加 | 高温でも増加は少なく、最小限 |
| 逆回復時間(trr) | 非常に短い(数ナノ秒) | 中程度(数十から数百ナノ秒) | 非常に短い(数ナノ秒程度) |
| スイッチング損失 | 低い | 高い | 非常に低い |
| 高温動作性能 | 最大約150°C | 最高約175°C | 最大約200°C |
| 適用範囲 | 低電圧電源、RFアプリケーション | 高電圧整流器、パワーエレクトロニクス | 高電圧、高効率アプリケーション(EV、産業用電力、再生可能エネルギー) |
比較の結果
Si-SBD: 低電圧、高速アプリケーションに最適ですが、リーク電流が高く、ブレークダウン電圧が低いという欠点があります。また、高温では IR が上昇するため、熱的に厳しい環境での使用が制限されます。
Si-FRD: 10-50kHzの中程度のスイッチング速度で1000V未満のアプリケーションに適しています。50~500 ns の逆回復時間 (trr) があり、その間に蓄積された少数キャリアによって大きな過渡電流とスイッチング損失が発生します.
SiC-SBD: 高いブレークダウン電圧、優れた熱性能、非常に低いスイッチング損失を提供するため、高出力、高効率のアプリケーションに最適です。
FRDは、順方向電圧が低いため低損失な一方で、逆回復時間が長く、スイッチング時の損失が大きくなりがちです。そのため、高周波スイッチングを伴う回路ではSiC-SBDの方が有利になります。
SiC-SBDは、高耐圧・低損失・高速スイッチングを実現するデバイスとして、電源の高効率化や高周波駆動、部品の小型化に貢献し、エアコン、電源、太陽光発電パワーコンディショナー、EV急速充電器などの応用分野でのPFC回路やインバータで採用が増えています。
更なる進化:SiCスーパージャンクションSBD
SiC-SBDの技術はさらに進化を遂げており、その一つの方向性として「SiCスーパージャンクションショットキーバリアダイオード(SiC-SJ-SBD)」が研究・開発されています。
スーパージャンクション構造は、もともと高耐圧のパワーMOSFETで採用されてきた技術で、オン抵抗と耐圧というトレードオフの関係にある性能を両立させる画期的な構造です。この先進技術をSBDに応用したSiC-SJ-SBDは、従来のプレーナ構造を持つSiC-SBDと比較して、単位面積当たりのオン抵抗(R_onA)を約35~40%低減することが報告されています。
例えば、650V耐圧クラスのデバイスにおいて、この技術は順方向電圧(V_F)を同電流密度で約0.1V~0.15V低減させ、導通損失を大幅に削減します。また、オン抵抗と静電容量の積で表される性能指数(Figure of Merit、FOM)も大幅に改善されるため、スイッチング損失の低減にも大きく貢献します。特に1.2kV以上の高耐圧領域では、その効果がより顕著になると期待されています。
これにより、特に数十~数百kHzで動作するスイッチング電源において、電力変換効率の顕著な向上(ケースによっては0.5%~1%以上)が期待できます。結果として、機器の発熱が抑制されるため冷却機構の簡素化や、より高い周波数での動作(高周波化)が可能となり、インダクタやコンデンサといった受動部品の小型化にも繋がります。これはシステムのパワー密度向上とトータルコスト削減に大きく貢献するため、極めて高い電力効率と性能が求められるデータセンターのサーバー用電源や次世代EVのオンボードチャージャーなど、高電圧かつ高周波スイッチングを行う電力変換回路において活躍が期待されるデバイスです。
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