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技術コラム

交流の基礎

2018年9月6日に発生した「北海道胆振東部地震」や、2019年の台風15号による被害で、電力供給が完全にストップする「ブラックアウト(停電)」が発生しました。発電所が被害を受けてしまう、または電線が破損してしまったなどの理由で、長期間にわたって電気の供給ができない状況が生まれました。
現代社会は家電から産業機器までほとんどすべての機械が電源を必要としています。ですからその電源として利用されている交流電源は、常に安定供給されるよう電力会社が日夜努力しています。

二重化された送電網
図:二重化された送電網

交流は西日本では60Hz、東日本では50Hzで送電されています。当然、周波数の異なる地域同士では、そのままでは電力を融通することはできませんので、周波数変換を行う施設を通じて電力をやりとりすることとなります。

日本の商用電源周波数
図:日本の商用電源周波数(©Shigeru23:Wikimedia Commons)

また電圧にもいくつかの種類があります。家庭用では主に単相標準電圧(単相二線式)の100Vが中心ですが、

単相二線式

一部、単相三線式の200Vで動作する機器があります。最近はエアコンなどで単相倍電圧のものが増えて来ています。

単相3線

一方、工場などでは一般的に使われている三相交流の200Vや、主に海外で使われている三相交流の400Vが提供されています。

三相交流

これが日本国内の事情ですが、海外ではまたまた状況が変わります。周波数こそ50Hzまたは60Hzですが、電圧が変わります。
少し変わったところでは、航空機のアビオニクス系で使われている電源でしょう。以前は14Vまたは28Vの直流が使われていましたが、大型化と電子化が進んだため、現在では一部の小型機を除き、400Hzの交流が使用されています。この高い周波数は変圧器を作る際に軽量で済むからという理由で採用されています。
下に主な国の電圧とコンセントの形状をまとめてみましたので、参照してください。

表:主要国の交流周波数と電圧
世界地理的区分 国と地域 周波数(Hz) 電圧(V) コンセント形状
アジア 日本 50/60 100/200 A
中国 50 110/220 B・C・O
香港 50 220 BF
台湾 60 110 A・O
韓国 60 110/220 A・C・SE
インド 50 115/230/240 B3・C
インドネシア 50 220 C
カンボジア 50 220 A・C
シンガポール 50 230 BF
スリランカ 50 230/240 BF・B3・B
タイ 50 220 A
ネパール 50 220 B・C
ベトナム 50 220 A・C
マレーシア 50 220 BF
ミャンマー 50 220/240 B・B3
ラオス 50 220 A・C
ヨーロッパ アイスランド 50 220 C
イギリス 50 230/240 BF
フランス 50 127/230 C・SE
ドイツ 50 127/230 C・SE
イタリア 50 125/220 C・SE
オランダ 50 230 B・C・SE
オーストリア 50 220 C・SE
ギリシャ 50 220 C
スイス 50 220 C
スペイン 50 127/220
スウェーデン 50 220 C
スペイン 50 127/220 C・SE
チェコ 50 220 C
デンマーク 50 220 B・C
ノルウェー 50 230 B・C
フィンランド 50 220/230 C
ベルギー 50 220 C・SE
ポーランド 50 220 C
ポルトガル 50 220 C
ルーマニア 50 230 C
ロシア 50 127/220 C
中東 エジプト 50 220 C
トルコ 50 220 C・SE
イスラエル 50 220 C
シリア 50 220 B・C
イラン 50 230 C
サウジアラビア 50 127/220 A・B・BF・C
チュニジア 50 220/115 C
モロッコ 50 220 C・SE
ヨルダン 50 220 B・BF
UAE(ドバイ) 50 220/240 BF
北米 カナダ 60 120/240 A
アメリカ合衆国 60 120 A
テキサス州 60 120/240 A
アラスカ州 60 127/240 A
中・南米 アルゼンチン 50 220 O・O2・C
エクアドル 60 110 A
キューバ 60 110/220 A
グアテマラ 60 110 A
コスタリカ 60 110 A
ジャマイカ 50 110 A
チリ 50 220 C
パナマ 60 110/220 A
バハマ 60 120 A
ペルー 60 220 A・C
ボリビア 50 220 A・C
メキシコ 50 120/127/230 A
ブラジル 60 110/127/220 A・C
アフリカ エジプト 50 220 C
ケニア 50 240 B3・BF・C
ジンバブエ 50 220/240 BF・B3L
タンザニア 50 230 BF
南アフリカ 50 220/230/250 B3L
オセアニア オーストラリア 50 240/250 O
ニューカレドニア 50 220 C
ニュージーランド 50 240/250 O
パラオ 60 110/120 A
フィジー 50 240 O
その他 航空機 400 115/200 -
図:日本国内でのコンセント形状
15A 20A 30A 15/20A
兼用
単相100V
無接地
日本国内でのコンセント形状
125V
日本国内でのコンセント形状
125V
引掛形
日本国内でのコンセント形状
125V
引掛形
日本国内でのコンセント形状
125V
日本国内でのコンセント形状
125V
単相100V
接地付
日本国内でのコンセント形状
125V
日本国内でのコンセント形状
125V
引掛形
日本国内でのコンセント形状
125V
抜止形
日本国内でのコンセント形状
125V
引掛形
日本国内でのコンセント形状
125V
引掛形
日本国内でのコンセント形状
125V
単相200V
無接地
日本国内でのコンセント形状
250V
日本国内でのコンセント形状
250V
引掛形
日本国内でのコンセント形状
250V
単相200V
接地付
日本国内でのコンセント形状
250V
日本国内でのコンセント形状
250V
日本国内でのコンセント形状
250V
引掛形
日本国内でのコンセント形状
250V
日本国内でのコンセント形状
250V
引掛形
日本国内でのコンセント形状
250V
三相200V
無接地
日本国内でのコンセント形状
250V
日本国内でのコンセント形状
250V
日本国内でのコンセント形状
250V
引掛形
日本国内でのコンセント形状
250V
日本国内でのコンセント形状
250V
引掛形
三相200V
接地付
日本国内でのコンセント形状
250V
日本国内でのコンセント形状
250V
引掛形
日本国内でのコンセント形状
20A 250V
日本国内でのコンセント形状
250V
引掛形
日本国内でのコンセント形状
30A 250V
日本国内でのコンセント形状
250V
引掛形
図:世界のコンセント形状
タイプ A B C BF B3 O SE
プラグ形状 世界のコンセント形状
世界のコンセント形状
世界のコンセント形状
世界のコンセント形状
世界のコンセント形状
世界のコンセント形状
世界のコンセント形状
世界のコンセント形状
世界のコンセント形状
世界のコンセント形状
世界のコンセント形状
世界のコンセント形状
世界のコンセント形状
世界のコンセント形状
コンセント形状 世界のコンセント形状 世界のコンセント形状 世界のコンセント形状 世界のコンセント形状 世界のコンセント形状 世界のコンセント形状 世界のコンセント形状

しかしその一方で、自然環境や電力需給によりトラブルに見舞われることもあります。電力会社は送電を二重化するなどして完全に電気の供給が途絶える事態を避けるようにしていますが、大規模な地震や洪水などによる自然災害は避けようがありません。
そしてそれ以外にもトラブルは数多くあります。
トラブルとしては、以下のようなものが挙げられます。

図:様々なトラブル時の電圧グラフ
トラブル名
正常な状態 様々なトラブル時の電圧グラフ 正常な状態
停電(ブラックアウト) 様々なトラブル時の電圧グラフ 停電(ブラックアウト)
瞬低(瞬時電圧低下) 様々なトラブル時の電圧グラフ 瞬低(瞬時電圧低下)
瞬停(瞬時停電) 様々なトラブル時の電圧グラフ 瞬停(瞬時停電)
電圧低下(電圧低下・ブラウンアウト) 様々なトラブル時の電圧グラフ 電圧低下(電圧低下・ブラウンアウト)
スパーク 様々なトラブル時の電圧グラフ スパーク
電圧変動 様々なトラブル時の電圧グラフ 電圧変動
サージ 様々なトラブル時の電圧グラフ サージ
ノイズ 様々なトラブル時の電圧グラフ ノイズ
周波数変動 様々なトラブル時の電圧グラフ 周波数変動

この中で、停電は電力の供給が1分を超えて途絶えたままの状態を指します。1分以内の場合は瞬停(瞬時停電)と呼んでいます。特に落雷などによって送電線の片方が異常をきたした場合、瞬間的に電圧の下がる「瞬低(瞬時電圧低下)」が発生し、その後一旦送電を停止します。これが瞬停です。大抵の場合は1分以内に送電が再開されますが、1分以上経っても送電を再開できない場合、停電と呼ぶ状態になります。
さらに「周波数変動」は発電側での過剰発電や発電量不足によって発生します。

また、送電網には異常が無くても、家庭や事務所、工場内のみで発生するトラブルもあります。例えばレザープリンターなど、起動時の突入電力が高い機器を接続している場合、同じコンセントに接続している他の機器に流れる電圧は下がってしまいます。これを電圧低下または電圧降下と呼びます。
逆に、大きな電力を使用していた機器の電源がOFFになった場合、他の機器に流れる電圧が瞬間的に上昇します。これをスパークと呼びます。これら電圧低下とスパークを繰り返す状態をまとめて「電圧変動」と呼びます。
それ以外にも、外部からの落雷の影響などで急激に電圧が上昇する「サージ」と呼ばれる現象や、同じ電源系統に接続されている機器のON/OFFの影響で発生する「ノイズ」などがあります。

これらのトラブルが発生することで、目に見える現象としては次のような現象が発生します。蛍光灯のチラツキやパソコンの動作不安定などです。さらにはモノづくりの現場や研究開発では以下のような問題が発生します。

  • 機械の動作が不安定になり、再現性がなくなる。
  • 制御機器が誤動作を引き起こす。
  • 試験装置、検査機器の精度が低下する。

これらは製品の品質にも影響しますが、最悪の場合には生産ライン全体が停止してしまうことにも繋がります。つまり、安定した(交流)電源というのは非常に重要なことなのです。

交流安定化電源の種類

では交流電源を安定化するにはどの様にすれば良いのでしょう。瞬停に備える物としては「無停電装置」などもありますが、交流電源を全般的に安定化させるため、様々な方式の装置が開発されています。
これらは一般的にACスタビライザ、自動電圧調整器(AVR:Automatic Voltage Regulator)、交流電源などと呼ばれています。これらには幾つかの方式があります。以下に6種類の方式の説明と長所/短所を紹介しましょう。

スライダック方式

交流電圧の可変に使われているスライダックとサーボモーターをつなげて自動コントロールし、ほぼ一定の電圧を供給するAC電圧安定装置です。原理としては入力電圧の変動を感知し、制御回路がサーボモーターをコントロールすることで、出力電圧を一定に保つ構成になっています。
スライダック方式は変換の効率が良い点がメリットです。一方、機械動作を伴うため、応答速度が遅く、瞬時の変動には対応できません。また波形歪は改善されず入力と同じであり、周波数の可変もできませんし、サイズも大きく重たくなります。

スライダック方式
図:スライダック方式

タップ切換方式

変圧トランスに+5%,+2%,+1%,0,-1%,-2%,-5%といった複数のタップを用意して対応する方式です。入力電圧の変動に応じて半導体スイッチでタップを切り替え、出力電圧を維持します。
機械部分がないためにスライダック方式よりも信頼性が高く、効率も良い点がメリットです。一方、スライダック方式同様、波形歪は改善されず入力と同じであり、周波数の可変もできません。ACトランスを用いますので重く、大きい点もデメリットでしょう。

タップ切換方式
図:タップ切換方式

リニアアンプ方式

前者方式の入力電圧に操作を加える簡易的な方式と異なり、交流の正弦波とそれを増幅するAMPで交流出力を行う電源です。
入力の影響を受けないため、一旦入力を整流して直流に変換し、その後リニアアンプに基準となる正弦波を入力することで任意の電圧、周波数を出力できる交流電源となります。綺麗な正弦波を出力でき、電圧・周波数を自在に可変できる点はメリットです。また応答も高速です。
一方、リニアアンプ方式のため、電力の利用効率が悪い点はデメリットです。また重量やサイズも、スライダック方式やタップ方式よりはましですが、比較的大きく、重くなります。

リニアアンプ方式
図:リニアアンプ方式

インバータ方式

リニアアンプ方式を小型軽量にして、大容量化を可能にした交流電源です。
方式はリニアアンプ方式と同じく基準波形を生成し、AMPで増幅する交流電源ですが、AMP部分が異なっています。AMP部分をリニア方式からスイッチング方式(PWM)にすることで、重量、サイズが1/3〜1/4になっています。
このように小型で、しかも綺麗な正弦波を出力でき、電圧・周波数を自在に可変できる点はメリットです。スイッチング方式にすることで、効率も向上しています。
一方、スイッチングのためリニア方式よりノイズが出やすい点はデメリットです。
とはいえ、小型、軽量化することで場所の制約から、今までは使えなかった卓上などでも置いて使える小型の製品も出てきていますので、ケースバイケースで使い分けるのが良いでしょう。

インバータ方式
図:インバータ方式

近年は電力供給やその品質も安定しているために、日本国内ではあまり大きな問題は発生していません。とはいえ、発展途上国ではまだまだ電源の品質が悪い国も多いため、安定電源が必要な精密機器には、これらの自動電圧調整器など交流安定化電源が重要な役割を担っているのです。

参考文献