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技術コラム

近年、電気自動車や蓄電池、モバイル端末などの普及もあり、リチウムイオンバッテリーが使用される場面が急増しています。ただ、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)に「リコール製品のモバイルバッテリーから発火」など、事故の注意喚起が掲載されているように、バッテリーは危険性が高いため安全への配慮は欠かせません。

そこで本記事では、リチウムイオンバッテリーの安全規格試験と、そこで使用される松定プレシジョンの製品について紹介します。なお、試験規格の適用範囲や基準などの詳細については、規格書の最新版をご確認下さい。

バッテリーの安全規格とは

まずは、バッテリーの安全規格がどのように定められているかを紹介します。

バッテリーにはさまざまな安全規格が設けられている

バッテリーは用途や使用環境によって要求される性能が変わることから、さまざまな安全規格が設けられ、あらゆる状況に対応できるようになっています。規格の目的は「性能確認」と「安全性確認」に大別され、設計への要求や試験項目がそれぞれ規定されています。

また、バッテリーの用途は小型民生用(ポータブル機器・小形・携帯型など)、産業用、車載用(自動車用)の3つに分類できることから、それぞれに合わせた規格が規定されています。

バッテリーの安全規格

それでは、日本で規定されている主なバッテリー規格を、JIS規格の番号ごとに説明します。

JIS規格番号 規格の名称
JIS C8711 ポータブル機器用リチウム二次電池
JIS C8712(現JIS C 62133) 密閉形小形二次電池の安全性
JIS C8713 密閉形小形二次電池の機械的試験
JIS C8714 携帯電子機器用リチウムイオン蓄電池の単電池及び組電池の安全性試験
JIS C8715-1 産業用リチウム二次電池の単電池及び電池システム -第1部:性能要求事項-
JIS C8715-2 産業用リチウム二次電池の単電池及び電池システム -第2部:安全性要求事項-

JIS C8711「ポータブル機器用リチウム二次電池」

JIS C8711は、ポータブル機器用リチウム二次電池の性能を評価するための一連の基準を示すため、規定された規格です。国際規格として2017年に規定された「IEC 61960」が基になっており、主にバッテリーの電気的性能を確認する試験が規定されています。

JIS C8712「密閉形小形二次電池の安全性」

JIS C8712は、ポータブル機器用の密閉形小形二次電池の通常使用時、または予見可能な誤使用時における安全な作動の要求事項や試験方法を規定した規格です。国際規格の「IEC 62133」を基に作成されており、安全にかかわる設計や試験についての規定が行われています。なお、JIS C8712は2020年に「JIS C 62133」に置きかえられ、現在は廃止されています。

JIS C8713「密閉形小形二次電池の機械的試験」

JIS C8713は、密閉形小形二次電池の機械的特性を確認するための試験方法について規定された規格です。国際規格の「IEC 61959」を基に作成されており、主に振動試験、自然落下試験の試験方法が規定されています。

JIS C8714「携帯電子機器用リチウムイオン蓄電池の単電池及び組電池の安全性試験」

JIS C8714は、携帯電子機器用リチウムイオン蓄電池の安全性試験方法を規定した規格です。圧壊試験、外部短絡試験など、JIS C8712に記載された一部の試験がより一般化・過酷化した形で規定されており、携帯電子機器はJIS C8712に加え、JIS C8714の試験項目を満たすことが求められます。

JIS C8715-1「産業用リチウム二次電池の単電池及び電池システム -第1部:性能要求事項-」

JIS C8715-1は、据置型を含む産業用リチウム二次電池の性能及び表示要求事項を規定した資格です。国際規格の「IEC 62620」を基に規定されています。電池の種類や極性、定格容量などの表示に対する規定、ならびに放電性能や高率放電性能の試験、内部抵抗の測定など性能確認に対する規定が行われています。

JIS C8715-2「産業用リチウム二次電池の単電池及び電池システム -第2部:安全性要求事項-」

JIS C8715- 2は、据置型を含む産業用リチウム二次電池の安全性要求事項を規定した資格です。国際規格の「IEC 62619」を基に作成されており、バッテリーが安全に使えるような配線、温度や電圧、電流の管理といった設計方針の規定が行われています。また、外部短絡、衝突、過充電などの製品安全性試験、ならびに過充電電圧制御、過熱制御などの機能安全性試験の規定もされています。なお、特定用途向け電池のJIS又はIEC規格が存在する場合はそちらの規格が優先されます。

バッテリーの安全規格試験

このように、バッテリーの安全規格にはいくつもの種類が定められ、その中で様々な設計要求・試験が定められていますが、特に安全性を担保するために行われる安全規格試験は重要性が高いです。そんな安全規格試験がどのような内容となっているのかを解説します。

バッテリーの安全試験にはさまざまなものがある

安全試験はバッテリーの安全性をあらゆる状況において担保できるよう、外乱や予期せぬ不良、誤使用などを想定して試験を行わなければなりません。そのため、試験はさまざまな種類が規定されており、メーカーは各試験を行い合格させる必要があります。

また、上記ではJIS規格を紹介しましたが、UL2580、UL2271、SAE J2464、SBA S1101、UN 38.3 、KMVSSなど、国際的なリチウムイオン電池の安全規格試験に適合しなければならない場合もあります。単セルや組電池でも試験規格や基準が異なるので、安全試験について検討する場合はこれらの違いにも注意しましょう。

電気的な規格試験

それでは、安全試験のうち電気的な規格試験について、種類ごとの試験内容を紹介します。 なお、各規格試験では、発火や爆発が起きても被害が出ないチャンバーを用い、カメラなどで状況確認が出来るようにする必要があるほか、定められた環境温度で試験を行うといった指定があるためご注意ください。

試験項目 試験の要件
外部短絡試験 誤使用で生じる外部短絡時に発火・破裂しないこと
強制内部短絡試験 異物混で生じる内部短絡時に発火・破裂しないこと
過充電試験 長時間充電し続けた際に発火・破裂しないこと
強制放電試験 逆充電を行った際に発火・破裂しないこと
サイクル寿命 充電を繰り返しても容量が一定以上残ること
圧壊試験 物理的な圧力で変形が起きた時に発火・破裂しないこと

外部短絡試験

外部短絡試験は、低抵抗でバッテリー両端端子を接続することにより、意図的に外部短絡を起こさせる試験です。誤使用などで外部短絡が起きてしまった際、異常発熱によって発火や破裂を引き起こさないことを確かめます。短絡用の抵抗は規格により異なり、5mΩ以下から0.1Ω以下など様々で、試験温度も異なります。

強制内部短絡試験

強制内部短絡試験は、電池に異物(ニッケル片)を入れて圧力を掛けることで、強制的に内部短絡を起こさせる試験です。コンタミ(異物混入)が生じた際に内部短絡による発火が生じないことを確かめます。

過充電試験

充電試験は、電池システムの最大の充電電流でバッテリーを充電する試験です。指定以上の長時間においてバッテリーが充電され続けた際、発火や破裂が起きないことを確かめます。JIS C8715-2では、バッテリーがシステム上で互いに独立した二重以上の保護機能又は充電電圧制御をもつ場合、試験を省略できます。

なお、過充電試験は規格により充電電流が異なる点に注意が必要です。

強制放電試験

強制放電試験は、バッテリーの放電容量で強制的に放電を行う試験です。バッテリーを逆接続した状態で充電すると生じる「強制放電」 時に、発火や破裂が生じないことを確かめます。具体的には、バッテリーを0.2 It Aの定電流で放電終止電圧まで放電しSOC0%の状態から、 1.0 It A の定電流で90分間強制放電し、その後目視検査を行います。

注記 充電及び放電の電流は,定格容量Cn Ahが基準です。
Itとは、I[電流]とt[時間]の積で、1時間率の電流値(A)を表します。
It=定格容量(Ah)/1時間(h)

サイクル寿命

サイクル寿命は、バッテリーを繰り返し充放電し、電気容量の劣化を確認する試験です。規格で定められた回数の充放電を行って、決められた電気容量が残ることを確かめます。

圧壊試験

圧壊試験は、バッテリーを日常的に使用した際に生じる、圧力による変形を想定した試験です。2枚の平板間に充電したバッテリーを挟み、一定の圧力をかけて破裂や発火が生じないことを確かめます。

バッテリーを取り巻く現状

ここまでバッテリーの安全規格に対する情報をお伝えしましたが、そもそもバッテリーがどのように利用され、安全対策を含む規制が作られているかの現状を解説します。

バッテリーの使用場面は増えている

バッテリーはモバイル化によってさまざまな電子機器に使用されているのはもちろん、電気自動車を始めとした地球環境問題への対策としても注目を集めています。太陽光発電や風力発電のような再生可能エネルギーは発電量が安定せず、安定的な利用にはバッテリーが欠かせないことや、災害時の電力確保に重要な役割を果たすこともあり、バッテリーの使用場面は幅広い業界で増え続けています。

バッテリーはエネルギーの塊

バッテリーの中には電気が貯められていますが、これは大量のエネルギーが貯蓄されていることを示しています。このエネルギーは正しい状態で放出されれば何の問題もありませんが、意図しない形で放出されると事故につながり、実際に発火問題なども発生しています。
リチウムイオン電池などは、電池の大容量もどんどん進んでいるため、万が一の際の危険性も増し続けており、安全性を担保する必要性が欠かせなくなっています。

バッテリーの安全について

このように、安全性の担保が重視された結果、2000年頃からバッテリーに対する安全規格の外殻が作られ始めました。その後2006年に、ノートパソコンのバッテリーで発火事故が相次いだことをきっかけに、規格の改訂が本格的に行われ、より安全が確保できるようになっています。

また、バッテリーの安全確保には過充電や過電圧・電流の防止、温度管理の徹底などが欠かせないため、これらを適切に管理するBMS(バッテリーマネジメントシステム)の開発も進みました。今ではバッテリーシステムに欠かせない存在として、安全性や性能向上を実現しています。

PSEマークによる安全表示も義務化

バッテリーにおいては、電気用品安全法により安全規格を満たしていることを証明する「PSEマーク」の表示も義務化されています。PSEマークの義務化はモバイルバッテリーの発火事故が増加したことを受け、さらなる安全性の向上を目的として2019年2月から始まりました。

PSEマークを表記するには、省令に則った試験に合格し「技術基準適合義務」を満たすことと、出力電圧や外観を全数検査する「自主検査」を行うことが求められます。認定機関での実施ではなく、あくまで自主的に試験を行う形式ではあるものの、PSEマークの表示によってバッテリーの安全性が一目で分かるようになっています。

安全以外のバッテリーに対する規格

安全面以外でも、バッテリーは環境面での負荷が大きいことから、環境負荷物質の規制やリサイクル面の規格も制定されています。中でも規格の制定に先行しているEU(欧州連合)における規格を紹介します。

環境面(ニッカド電池のカドミウムに対する規制)

EUでは、2006年に発効された電池指令(2006/66/EC)により、バッテリーに含まれる有害物質の規制と回収についての規制が行われています。電池指令では、水銀とカドミウムの含有量が一定値を超えないようにする制限があるほか、バッテリーの回収・処理方法についても規定が行われています。

なお、EUではRoHS指令(2011/65/EU)による有害物質の禁止も行われていますが、バッテリーについては電池指令の方が優先されるため、物質によっては含有が許されています。また、電池指令は2023年に内容がアップグレードされ、欧州電池規則(EU2023/1542)として発効されています。

リサイクル面

EUでは、欧州電池規則の中で、製品に使われる成分のリサイクル率の指定、ならびに表示の義務化についても規定しています。リサイクルの対象となるのはコバルト、鉛、リチウム、ニッケルで、2024年2月からはリサイクル率の表示が義務化されています。また、2031年以降はそれぞれのリサイクル率をコバルト16%、鉛85%、リチウム6%、ニッケル6%以上にすることも義務化されます。

松定プレシジョンの充放電装置(バッテリテスタ)

松定プレシジョンではリチウムイオン二次電池などのバッテリ充放電試験(バッテリサイクルテスト)を行う装置をラインナップしています。
様々な状態での充放電のサイクル試験に対応しているほか、大切な電池を保護するための保護機能や安全機能も充実しています。

松定プレシジョンの充放電装置(バッテリテスタ)

コンパクト充放電電源装置(ECDシリーズ)

ECDシリーズは、手狭な実験机にも置きやすい超小型設計の充放電電源です。35mm/84mmというコンパクトサイズで最大108Wの充放電に対応しています。充放電試験専用ソフトが標準添付されているほか、パソコンにUSB接続して使えるので、バッテリーの充放電試験を卓上で簡単に行えます。

【対応アプリケーション】
スマートフォン、モバイルバッテリー、ノートPC、タブレット、スマートデバイス、カメラ、電動工具、掃除機、ドローン、18650、21700、4680型リチウムイオン電池
コンパクト充放電電源装置(ECDシリーズ)

大型バッテリ充放電装置(ECPUシリーズ)

ECPUシリーズは、200W~1250Wまでの充放電が行える、大容量の直流充放電装置です。
充放電動作と各種計測を一括コントロールできる専用ソフトウェアや、サーミスタによる電池温度検出機能などの機能が搭載されており、大型二次電池の評価をより簡単に行えます。また、多セルを直列接続した状態でも各セルへの充放電やセル毎の電圧・電流・温度のデータを取得できる特徴もあります。

【対応アプリケーション】
電動アシスト自転車、電動工具、小型電動モビリティ、ドローン、自動配送ロボット、電動草刈り機、電動農機具、UPS、ポータブル電源
大型バッテリ充放電装置(ECPUシリーズ)

電力回生型双方向直流電源(PBRシリーズ)

PBRシリーズは、直流電源と直流電子負荷の機能を持ち、接続を切り替えることなくバッテリーの充電/放電評価が行える装置です。電子負荷動作時に電力を交流電源に回生することから、電力回生型と呼ばれています。電力を回生しエネルギーを有効に使えるだけでなく、排熱が抑えられるため従来にはない小型化を実現しています。

【対応アプリケーション】
EV(電気自動車)、HEV(ハイブリット自動車)、家庭用蓄電池、電動バイク、小型電動物流機器、自動配送ロボット、ポータブル電源
電力回生型双方向直流電源(PBRシリーズ)

大容量回生電源(双方向直流電源)(PBRMシリーズ)

PBRシリーズを最大10台並列接続し、1台のキャビネットに収納した大容量回生電源です。5kW~150kWまで60を超える豊富なラインナップがあり、用途・仕様に応じた最適なモデルを選べます。キャビネット内部はあらかじめ配線されているので、セットアップの手間を省けます。また、キャスター付きなので楽に移動することが出来ます。

【対応アプリケーション】
EV(電気自動車)、HEV(ハイブリット自動車)、家庭用蓄電池、電動バイク、無停電用バッテリー、電動建築機械
電力回生型双方向直流電源(PBRシリーズ)