触覚伝達(ハプティクス)とは、ユーザーに振動や力などの触覚フィードバックを与えることで、人間が持つ五感の一つである「触覚」に働きかける技術の総称です。この技術により、私たちは画面の中の出来事をよりリアルに感じたり、直感的な操作を行ったりすることが可能になります。最も身近な例は、スマートフォンの着信を知らせる振動や、ゲームのコントローラーが状況に応じて震える機能です。
ハプティクスの主な原理と方法
触覚フィードバックを生成する方法はいくつかありますが、ここでは代表的な3つの方式をご紹介します。
1. 振動触覚 (Vibrotactile Feedback)
モーターやピエゾ素子などの振動子を用いて皮膚に直接振動を伝え、触感を表現します。構造がシンプルで小型化しやすく、低コストで実装できるため、最も広く利用されている方式です。
2. 力覚 (Force Feedback / Kinesthetic Sensation)
ユーザーの動きに対して力(反力や抵抗)を返すことで、物体の重さや硬さ、手応えなどを感じさせます。手術のトレーニング用シミュレーターなどに利用され、非常にリアルな没入感を得られます。
3. 静電気触覚 (Electrostatic Haptics)
ディスプレイなどの表面に微弱な静電気を発生させ、指先との間に働く摩擦力を変化させることで、ザラザラ感やつるつる感といった表面の質感を擬似的に作り出します。
広がるハプティクスの応用事例
ハプティクス技術はエンターテインメント分野だけでなく、社会的な課題を解決する技術としても大きな期待が寄せられています。
視覚情報の触覚化 - 視覚障害者支援
ハプティクスは、視覚情報を触覚に変換することで、視覚に障害を持つ方々の情報アクセスを大きく向上させます。
- 触覚ディスプレイ: 画面上の図形やグラフ、地図などを、微細なピンの配列やピエゾ素子の振動によって立体的に浮かび上がらせ、指で触って認識できるようにします。これにより、これまで伝えることが難しかった視覚的な情報を直感的に把握することが可能になります。
- 歩行支援・ナビゲーション: 白杖や体に装着するウェアラブルデバイスに振動子を内蔵し、進行方向や障害物の位置を振動の方向やパターンで知らせることで、安全な歩行をサポートします。
未来の体験を創造するハプティクス ― 大阪・関西万博での実演
ハプティクス技術は、医療や福祉分野だけでなく、未来のコミュニケーションやエンターテインメントにおいても大きな可能性を秘めています。
その最先端技術を体験できる場として、2025年に開催される大阪・関西万博が注目されています。万博の「未来のヘルスケア」ショーケースでは、株式会社村田製作所がグループ会社であるミライセンス社の先進的な3Dハプティクス技術の実演を予定しています。
この技術は、特殊なデバイスを用いて何もない空間に振動や力を局所的に発生させ、あたかもそこに物体が存在するかのようなリアルな手触りや抵抗感を再現します。来場者は、仮想空間のオブジェクトに直接触れたり、その質感を確かめたりといった、これまでにない没入感の高い体験が可能になります。
最先端研究を支える松定プレシジョンの技術
高精細で応答性の高いハプティクス、特に視覚障害者支援に用いられる高解像度な触覚ディスプレイの開発において、性能を最大限に引き出す鍵は、振動源となるピエゾ素子をいかに高速かつ正確に駆動させるかにあります。
多数のピエゾ素子を個別に、そして精密にコントロールするには、意図した通りの波形を正確に出力できるアンプが不可欠です。松定プレシジョンは、長年培ってきた電源機器の技術を基盤に、ハプティクスの研究開発を強力にサポートします。
ピエゾ素子(ピエゾアクチュエータ):
松定プレシジョンのピエゾアクチュエーターPZAシリーズやPZシリーズは、名古屋工業大学様や東北大学様などでの、ハプティクスの研究・開発で採用実績があります。
-
名古屋工業大学
「
皮膚振動伝搬の操作による触覚感度変化の可能性
」
使用製品:ピエゾアクチュエータ(PZA12-6) -
東北大学
「
Dependence of the Perceptual Discrimination of High-Frequency Vibrations on the Envelope and Intensity of Waveforms
」
使用製品:ピエゾアクチュエータ(PZ12-112)
ピエゾドライバ(高電圧アンプ):
松定プレシジョンのピエゾドライバは、ピエゾ素子の高速駆動に求められる広帯域・高スルーレートを実現しています。ナノ秒レベルの応答性で、複雑で繊細な振動を忠実に再現します。
DC電源・バイポーラ電源:
ノイズが少なく安定した出力を供給し、駆動システムの信頼性を高めます。特に電気通信大学様の研究で活用されたP4K-80のような直流電源は、モータ駆動においても優れた性能を発揮します。
-
電気通信大学
「
モータ回転加速度を用いた振動触覚及び擬似力覚提示
」
使用製品:直流電源(P4K-80)
松定プレシジョンは、日本製ならではの高品質と信頼性を基盤に、小型で高性能な製品を提供し続けています。
ハプティクスデバイスの開発や、ピエゾ素子を用いたアプリケーションで、高精度な駆動を実現するhigh voltage power supplyやhigh voltage amplifier、DC power supplyをお探しでしたら、ぜひ一度、私たちにご相談ください。お客様の要求仕様に合わせた最適なソリューションのご提案や、カスタム対応も可能です。研究開発を加速させるパートナーとして、松定プレシジョンがお手伝いします。
- 関連ワード:
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基本・総称
- ハプティクス (Haptics)
- 触覚フィードバック (Tactile Feedback)
- 触覚デバイス (Haptic Device)
- 触覚インターフェース (Haptic Interface)
- 触覚技術 (Haptic Technology)
- 触覚ディスプレイ (Haptic Display)
-
技術方式
- 振動触覚 (Vibrotactile Feedback)
- 力覚フィードバック (Force Feedback)
- 運動感覚フィードバック、キネスセティックフィードバック (Kinesthetic Feedback)
- 静電気触覚 (Electrostatic Haptics)
- 摩擦変化触覚 (Friction-based Haptics)
-
応用分野
- スマートフォン振動 (Smartphone Vibration)
- ゲームコントローラー 触覚 (Game Controller Haptics)
- VR触覚デバイス (VR Haptic Device)
- AR触覚デバイス (AR Haptic Device)
- ウェアラブル触覚 (Wearable Haptics)
- 医療用シミュレーター 触覚 (Medical Simulator Haptics)
- 視覚障害者支援 触覚 (Haptics for Visually Impaired)
- 歩行支援デバイス 触覚 (Navigation Haptics)
- 部品・ハードウェア