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技術コラム

リニア電源とスイッチング電源の違い

■リニア電源とスイッチング電源の仕組み

リニア電源とスイッチング電源はどちらも、安定した直流電流(「直流」または「DC(Direct Current)」とも略されます)を供給するための電源装置です。

一般的な電子機器、たとえば、スマートフォンやパソコン、エアコンや工場のロボットなどの回路に直流電流が流れています。このような電子機器は、機器の種類や内部の回路ごとに必要な電圧が異なっているため、それぞれの電圧に合った直流電源が必要です。

リニア電源とスイッチング電源のうち、先に登場したのはリニア電源でした。リニア電源はシリーズ電源ともよばれます。リニア電源では、入力されてきた交流電流に対し、最初に鉄芯とコイルからなるACトランスを用いて電圧を下げます。続いてダイオードを使って整流回路で整流し、コンデンサの平滑回路で安定した電圧にします。

整流回路から出力される電圧は正弦波の正の山の連続になっており、安定した直流電流とはいえません。そのためコンデンサからなる平滑回路を通し、さらに安定化回路(制御回路)を通して電圧を一定に変換します。制御回路には、シャント方式とシリーズ方式があります。どちらの方式も出力の直流電圧が常に一定になるように監視し制御します。入力電圧と出力電圧の差は熱となるため大型の放熱器が必要です。

リニア電源では入力電圧と出力電圧、電力に応じた専用のACトランスが必要になります。そのため装置ごとに容量が固定されており、用途に応じて専用のトランスをもった電源が必要になります。

リニア電源とスイッチング電源の違い|リニア電源(シリーズ電源)のしくみ

一方、スイッチング電源は、電圧が調整されるより先に整流と平滑が行われるのが特徴です。先に整流された電流に対してスイッチング素子を用いてパルス波に変換します。高速でスイッチをオン/オフすることで整流された電流をパルス波による擬似的な交流として扱い、高周波トランスを用いて電圧を調整するのです。

リニア電源とスイッチング電源の違い|スイッチング電源のしくみ

■リニア電源とスイッチング電源の比較

リニア電源とスイッチング電源の代表的な違いは、ノイズの大きさと電源装置そのものの大きさです。まずはノイズの違いについて解説していきましょう。

前述のとおり、スイッチング電源ではスイッチのオン/オフを高速で繰り返します。そのためスイッチの切り替えによるノイズが発生します。ノイズという観点でみた場合、リニア電源はスイッチング電源よりもノイズが小さくなります。

同じ出力が出せるリニア電源とスイッチング電源を比較してみると、リニア電源(P4L18-2)のノイズは、カタログスペックで0.5mVrms、1mArmsであるのに対し、スイッチング電源(P4K18-2)は、5mVrms、5mArmsほどになります。

つまりこの場合、リニア電源の電圧ノイズはスイッチング電源の1/10、電流ノイズはスイッチング電源の1/5になります。

続いて電源装置の大きさについてです。リニア電源とスイッチング電源では、スイッチング電源がより小さくなります。この理由はトランスの大きさに由来します。電圧を同じだけ変化させる場合、トランスは周波数が高いほうが小さくなります。

リニア電源ではコンセントなどから入力された周波数がそのままトランスに入力されるのに対し、スイッチング電源では整流後の電流を高周波パルスにしてトランスに送ります。そのため、トランスが小さくて済むのです。

例えば、18Vの直流電圧が出力できる電源で比べてみると、リニア電源(P4L18-2)は、高さ124x幅84x奥行325mmで、重量は約3kgになります。一方、スイッチング電源(P4K18-2)では、高さ124x幅35x奥行128mmで、重量は約500gになります。

高さはどちらも同じですが、スイッチング電源はリニア電源にくらべ幅や、奥行きが小さく体積は1/6となり重量も1/6とコンパクトで軽量です。リニア電源のトランスには鉄芯が使われるため、大きなトランスが必要になると、その分重量にも影響を及ぼすためです。

スイッチング電源はリニア電源より遅れて1990年ころから一般的に使用されるようになりました。昔のACアダプタがとても大きくて重たかったのは、リニア電源が使われていたからです。

近年では、エネルギーロスの少ないGaN(窒化ガリウム)電源なども実用化されています。

GaN電源とは従来のシリコンを材料とした半導体と同じように、窒化ガリウムを材料に使用した半導体です。GaNを使用したトランジスタは従来のトランジスタよりも電力損失が少なくなります。

このような新しい技術の開発によって、より小型でパワーのあるスイッチング電源が作られるようになっています。

■その他の違い

リニア電源とスイッチング電源には、ノイズや大きさの他にもさまざまな違いがあります。ここではその他の違いについて解説していきます。

スイッチング電源のほうがエネルギーの変換ロスが少ない

スイッチング電源はもともと、NASAが宇宙空間で使用するために開発したものでした。そのため高いエネルギー効率を求めて開発されています。リニア電源はエネルギーを熱として放出する量が多いため、スイッチング電源のほうが高効率です。

リニア電源の方が負荷変動に対してレスポンスが早い

スイッチング電源の出力は制御回路によってコントロールされています。一方、リニア電源ではレギュレータ回路の応答によって コントロールされています。そのためリニア電源がより、負荷変動に対してレスポンスが早くなります。

出力する電力が少ない場合にはリニア電源のほうが、大きい場合にはスイッチング電源のほうが安く作れる

リニア電源の方が単純な構造なので安く作れます。しかし前述のように、リニア電源はスイッチング電源に比べて効率が低く発熱量が多いため、電力消費量が多くなると、リニア電源そのものが消費する電力や、それに伴う熱の放出などへの対策が必要になります。

そのため電力消費量が大きくなると、スイッチング電源のほうがトータルのコストが低くなります。おおよその目安として400Wより低い場合にはリニア電源のほうが低いコストで運用できます。

これまで述べてきたリニア電源とスイッチング電源の違いを表にまとめると下記のようになります。

リニア電源 スイッチング電源
ノイズ 小さい 大きい
回路 単純 複雑
電源装置サイズ 大きくて重い 小さくて軽い
発熱 大きい 小さい
レスポンス 速い やや遅い
コストの低さ 小電力電源で有利 大電力(ハイパワー)電源で有利