検索中...

技術コラム

日本では多くの新入社員が4月に入社してきます。そこで起こりがちなのが、知識不足・経験不足に起因する事故や怪我です。今回は新入社員が職場で電気実験や回路評価を行う際に気をつけるべき内容について紹介します。

電源を使う前に

電源には幾つかの種類があります。ですから、これから行おうとしていることに向いた電源を選択しなければいけません。適当につなげば良いというわけではないのです。
代表的な電源の種類には次のものがあります。

電源の種類
電源の種類 電源の特徴
交流電源 交流電源 交流を出力する電源で、商用電源などがある
直流電源 直流電源 直流を出力する電源で、一次電池、二次電池などがある
スイッチング電源 商用電源をスイッチング回路などで直流に変換する電源
シリーズ電源 商用電源をシリーズレギュレータによって直流に変換するリニア電源の一つ
基準電源 電源電圧や温度、素子のばらつきなどにかかわらず一定の電圧を出力する電源

機器の動作は直流なのか交流なのかをチェックすることは大変重要です。直流電源に交流電源で動作する機器を接続する、またはその逆を行うと、機器や電源が破損する場合があります。
また、直流電源が必要な場合でも、シリーズ電源はリニア電源ですので熱を発生しますから、熱に弱い機器の近くで使うことは推奨されません。逆にスイッチング電源は熱の発生こそ抑えられますが、ノイズが多く出るため、ノイズによる誤作動が懸念される機器の接続は避けるべきでしょう。詳しくは「直流電流の作り方」の回を参照してください。
また、電圧の変動に弱い機器や、測定のために安定した電源が必要な場合は、基準電源を用いる必要があります。実際にスイッチング電源にも、出力電圧を安定させるために基準電源が用いられています。

正しい電源の種類を選択した後には、動作範囲を確認する必要があります。12Vで動作する機器を120-240Vの出力電圧の電源につないでしまっては意味がありません。電源の出力範囲が使いたい電圧、電流を含んでいるのかを確認しなければならないのです。もちろん出力が大きすぎると、機器の破損につながりますし、実際に動作したとしても、性能測定を行うための分解能が不足する可能性があります。

2ピンタイプのコンセントと3ピンタイプ

図に誤りがございましたので訂正いたしました。(2022/05/09)

もちろん、電源だけに気をつけていれば良いというわけではりません。接続する負荷を確認することも重要です。抵抗負荷、誘導負荷、容量性負荷、LEDなど、接続した負荷の負荷特性が、目的に合致しているのかをチェックしましょう。

ここまでを注意すれば機材の選定については大丈夫です。ここから配線をつないでいくわけですが、大きな電圧や電流を流した場合、配線の線材の能力不足が発生する場合もあります。十分な能力が無ければ配線が発熱し、正しく計測が行われなくなります。また配線の絶縁体が溶け落ちたりする可能性もありますし、最悪の場合は発火することもあります。電流、電圧に合った電線を使うようにしましょう。

電流、電圧に合った電線

その上で、接続する場合には極性についても確認しましょう。つなぐものが昔懐かしいムギ球のように極性に関係しないものもありますが、ダイオードなどは極性を逆につないでしまうと、動作しません。数多くの回路を接続する場合には、一つ一つの極性を確認しながら接続していかない限り、正しく動作しなくなります。
また、グラウンド(GND)につなぐのか、それともつながないのかも検討しましょう。グラウンド(設置型の機器では地面を使うことが多いのですが、場合によっては金属のフレーム部分などにすることもあります)につなぐことで電位差が安定する効果、そしてノイズが低減される効果が見込まれます。

グラウンド(GND)を接地する例
グラウンド(GND)を接地する例
フローティングの例
フローティングの例
プラス電源
プラス電源 ショートバーの接続
マイナス電源
マイナス電源 ショートバーの接続

作業環境について

次に、機材の準備以外にも注意するべきことを紹介しましょう。低電圧の機器しか扱わないということはおそらく無いはずです。高電圧のものを扱う場合には作業を行う環境にも注意が必要です。まず、必要な機材以外は置かないようにしましょう。間違いの元になりますし、そもそも作業スペースに乱雑にものが置かれていると、作業効率も悪くなります。
また、先ほど説明したとおり、もし電圧が高すぎたりした場合には発火の可能性があります。この時に作業スペースに可燃性のものが放置されていると、火事になります。そこまで行かなかったとしても、絶縁皮膜が溶け落ちると、漏電やそれに起因する感電の恐れもあります。従って、これらを防ぐためには、作業環境を整理すると同時に絶縁・難燃素材の上で作業するようにしなければなりません。

念のために火災予防にも配慮すると尚良いでしょう。電気機器に関する火災には通電火災などがあります。通電火災とは電気機器に通電した際に発生する火災で、一般に知られているのは地震の際に停電していたのが、電源復旧で通電した際に、倒れていた電気ストーブが周辺にあった可燃物に火を付けるというパターンです(消防庁の「通電火災対策について」などを参照のこと)。
作業スペース上、特に機器に可燃物が接している場合には注意が必要です。また、作業スペースが濡れていたりすると、漏電の危険性もあります。
その他にも電気火災には様々な注意が必要です。コンセントに挿しっぱなしでホコリの溜まったプラグに通電すると発生するトラッキング現象や、絶縁がきっちりと行われていない配線による電気ショートなども原因となります。

トラッキング現象

もし火災が発生した場合も、水をかけるのではなく、消火器(粉末消火器)を使いましょう。完全に通電を止めてからであれば水でも良いのですが、通電している状態で水をかけると、電気が水を伝って流れるため、感電する危険性があります。
電気火災を防ぐために、消防庁が「電気火災発生要因」などの学習コンテンツを用意していますので、こちらで学習するのも良いでしょう。

消火器の選び方

通電を行う際の注意点

電源のパワースイッチを入れる前に、事前に動作確認を行う事も忘れてはいけません。あなたが単独で作業を行っている場合は別ですが、複数メンバーで行っている場合、配線先で作業を行っていたり、ショートしたりしている部分があるかもしれません。そのため、事故を防止するため、全体を確認し、負荷をつなぐ前に動作確認を行う事が必要なのです。
また、普段から使っている電源であれば良いのですが、長年使っていない電源を久しぶりにつなぐ場合、電源の挙動が正しいかどうかを事前にチェックする必要もあります。電源の劣化により、定格出力が出ない場合や、整流が上手く行われずにリップルがでる可能性もあります。また思わぬ電圧変動や周波数変動が発生する場合もありますので、それらがないかを確認しておきましょう。詳しくは「交流電源について」の回を参照してください。

さて、電源の確認も終わり、作業場の安全項目も全てクリアしたら、ようやく電源のアウトプットスイッチを入れます。ですが、その前にも点検する項目はあります。例えば設定電圧や電流の確認です。電圧や電流の設定値が大きなままになっていると、接続している機器にいきなり大電圧がかかることとなります。実験などの内容にも依りますが、まずは電圧・電流を絞っておき、徐々に上げていくことをお薦めします。
徐々に、そして安全に電圧・電流を上げるにはどのようにすればよいのでしょうか。これは「蓄電方法の種類と特徴」で紹介した充電の方法を参考にすると良いでしょう。
常に一定の電流を流しながら徐々に電圧を上げていくCC方式や、逆に一定の電圧をかけた状態で電流を増やすCV方式などがあります。また、両方を組み合わせて運用するCV・CCなどもあります。CV・CCでは細かなコントロールが必要になりますが、安定した電源を供給するための方法として非常に有用です。

最後に

それでも実験を行っていると機器や負荷を壊してしまうことがあります。これを防ぐには、予期せぬ電圧がかからないようにする、もしくはかかった場合には瞬間的に電気が流れないように配線を切ってしまえるように工夫しておく必要があります。
例えばLEDに流れる電流が、チップの最大電流値を超えないようにするためには、制限抵抗を挿入します。例えば12Vの車載バッテリーで動作させる場合、5VのLEDを2個直列で使用すると、必要な電圧は10Vで、2Vオーバーしています。この場合はこのオーバーする2V(もしくはそれ以上)に対応する制限抵抗を入れます。
制限抵抗の抵抗値は

抵抗値=電圧÷電流

ですから、流す電流に応じて抵抗値の異なる抵抗を用意しましょう。
またそれ以外の方法として、ダイオード(ツェナーダイオード)を使って電圧をコントロールする方法や、定格以上の電流が流れた場合に内蔵する合金部品が溶断するヒューズを組み合わせることで、電流・電圧の両方をコントロールできるようになります。