ファラデーカップとは?基礎から測定システム例まで解説
ファラデーカップとは
ファラデーカップとは導体が筒状になった装置のことで、外から飛び込んでくる荷電粒子を内部の導体表面に吸着させて荷電粒子の数に応じた電流を測定します。
ファラデーカップはファラデーケージと同様、「導体内部には電場が生じない」という電磁気学の原理に基づいており、内部空間が外部電場の影響を受けない構造となっています。これにより、外部ノイズの影響を受けにくく、非常に微小な電荷変化でも高い精度で検出できます。
ファラデーカップはこの性質を活かし、質量分析装置やイオンビーム測定装置、粉体の帯電測定など、微細な電荷を扱う多くの先端技術分野で利用されています。
原理と構造
ファラデーカップの原理はシンプルで、荷電粒子が持つ電荷を導体でできたカップ状の受電部で受け止め、それを電流として変換するというものです。
まず、真空中などを移動してきた荷電粒子のビームがファラデーカップに入射すると、それらの粒子はカップの内部表面に吸収されます。このとき、粒子の電荷が導体に移され、その電荷の移動=電流として取り出すことができます。この電流はクーロン毎秒(C/s)、すなわちアンペア(A)という単位で表され、ビーム中の荷電粒子の総量に比例します。
ファラデーカップの主な役割は荷電粒子を物理的に捕らえること、その量を正確に電流として測定することです。構造としては導電性のカップに加えて、二次電子の影響を防ぐための抑制電極が備えられることが多く、微弱な電流でも高精度で読み取れるエレクトロメータと組み合わせて使用されます。
設置環境と周辺回路
電子ビームやイオンビームの電流を高精度に測定するには、ファラデーカップを空気中の粒子や湿度の影響を受けにくい真空チャンバー内に設置することが重要で、これにより外部の影響を受けずにビームの電荷だけを安定して測定することができます。
周辺回路は主に抑制電極、エレクトロメータ、双極性高圧電源で構成されます。抑制電極は粒子の衝突によって放出される二次電子の影響を防ぐ役割を持ち、測定の安定性と信頼性を高めます。エレクトロメータはファラデーカップに蓄積された電荷を非常に微小な電流として高感度に検出し、ナノアンペア以下の測定にも対応できます。
双極性高圧電源は±30kVの範囲で安定した電圧を供給し、リップルを10ppm以下に抑えることでノイズを最小化でき、測定結果の再現性を高めて精度を向上させることができます。
このように真空下での適切な設置環境と、信頼性の高い周辺回路構成を組み合わせることで、ファラデーカップの持つ高精度な測定能力を最大限に引き出すことができます。
ファラデーカップを用いた測定システム例
ファラデーカップを用いた測定システムは、イオンビームの電流、すなわち荷電粒子の数を高精度に測定するために構成されており、一般にイオン源、加速電源、ビーム輸送系、ファラデーカップ+抑制電極、エレクトロメータという構成で設計されます。
この測定ラインにおける電流測定手順は以下の通りです。
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イオンビームをファラデーカップに輸送
イオン源を起動してイオンを生成し、加速電源によって所定のエネルギーまで加速させます。加速されたイオンは電磁レンズや電磁石を用いたビーム輸送によって経路が制御され、ファラデーカップの中心に導かれます。
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抑制電極に高電圧を印加して二次電子の放出を抑制
ビームがファラデーカップに到達すると、カップ内の導体表面が荷電粒子を受け止め、対応する電流が流れます。ここで、イオンが導体に衝突する際の二次電子の放出を防ぐため、抑制電極に負電圧(通常はカップに対して−50 V〜−300 V程度、-100V前後が多い)のバイアス電圧を印加し、二次電子をカップ内に引き戻します。
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ファラデーカップに収束された電流を計測
エレクトロメータなどでファラデーカップ内に集められた電子を計測し、装置の性能評価やビーム制御の基準データとして記録・活用します。
このような測定システムはイオンビームの特性を高精度で把握するための信頼性の高い手法として、研究開発や加速器の運用現場で広く活用されています。
メリット
ファラデーカップを使うメリットは高い測定精度と信頼性のほか、入射した荷電粒子を損失なく電流として測定できる点があげられます。イオンや電子ビームがファラデーカップに入射してもビーム自体のエネルギーや数に影響を与えないため、正確に電流として捉えられるのが特徴です。
また、ファラデーカップは幅広いビーム電流に対して直線的な応答特性を持っており、小さな信号から大きな信号まで一貫して高精度な測定が可能です。この「直線応答性」により、測定結果の再現性が向上し、取得したデータに基づいた装置制御や物理解析の信頼性が高まります。
さらに、ファラデーカップのもう一つの重要な特長が「広帯域性」です。高速に変化するビームや短いパルス状の信号にも遅れなく応答できるため、時間分解能の高い測定やリアルタイムでのビーム監視にも対応可能です。
これらの特性を兼ね備えたファラデーカップは、電子・イオンビームの電流測定において安定かつ高性能なセンサとして信頼されており、最先端の研究開発から産業用プロセス制御まで、幅広い用途で活用されています。
主な用途
ファラデーカップは多様な分野でその高精度な電流測定能力を活かして活用されています。代表的な用途としては、質量分析、電子・イオンビームのモニタリング、そして粉体の帯電測定の三つが挙げられます。
質量分析:真空チャンバー内に設置され、数pAから数十nA程度までの極めて微小な電流を正確に測定します。真空中で精密な電荷検出が求められる環境において、ファラデーカップの高感度かつ直線的な応答特性が大きな強みとなります。これにより、微細な荷電粒子の流入を正確に捉えることができ、分析対象の質量や化学組成を高い信頼性で解析することが可能です。
電子やイオンビームのモニタリング:真空環境下に設置されることが一般的で、計測レンジはより広く、数nAから数百μA、場合によってはmAオーダーにまで対応します。ビームの強度や挙動をリアルタイムで監視することで、加速器や分析装置の性能維持や制御に欠かせない役割を果たします。
粉体の帯電測定:大気中での使用が一般的で、帯電した微粒子や粉体に由来する数十pA〜数nA程度の電流を正確に検出することが求められます。製造工程や品質管理の現場において、粉体の帯電状態を正確に把握することは、製品の品質向上やトラブル防止に直結します。
このように、異なる環境と計測レンジに応じて、ファラデーカップはその特長を最大限に発揮し、多岐にわたる産業・研究分野で高精度な静電気測定を支えています。
ファラデーカップを支える松定プレシジョンの高圧電源
松定プレシジョンの高圧電源は、ファラデーカップを用いた電子ビーム制御の分野で高い信頼を得ており、用途に応じて最適化された複数のシリーズが展開されています。
微小電流ビーム計測向け
ピコアンペア解析・静電試験向け
- 【用途】
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- 電子顕微鏡
- 電子ビーム
- 絶縁耐圧試験
- 標準電源
- X線装置
- リソグラフィ
- 静電気放電試験(ESD)
- 電子部品評価試験
- 電子銃
- 走査電子顕微鏡(SEM)
- 質量分析(MS)
- イオンビーム
- 各種高圧試験など
汎用静電測定・治具バイアス向け(HAR/HARSシリーズ)
- 【用途】
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- インバータの検査・評価
- イオンビーム
- 絶縁耐圧試験
- 電子ビーム
- 電子部品エージング
- 各種高電圧実験
- エレクトロスピニング
- X線装置
- イオン注入装置
- Automatic Test Equipment(ATE)
- キャパシタ充電
- 誘電体バリア放電(DBD)
- パワーデバイスの逆耐圧試験
- 【用途】
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- パワーデバイスのリーク電流測定・スイッチング特性試験
- インバータの評価試験
- コンデンサ充電
- 絶縁耐圧試験、電子ビーム
- イオンビーム
- X線装置
- エレクトロスピニング